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□冬の、少し寒い夜に
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いきなり、征ちゃんがあたしの家に行きたいと言い出した。




というわけで、今初めて彼氏と『お家デート』をしている。



とはいっても、あたしは携帯を弄りながら、彼はソファに座って雑誌を読みながら、2人でお喋りをしているだけだけど。




でも時々携帯から目を離して彼の顔を見ると、いつものように街でショッピングをして、少しお高いお店で食事をするデートの時よりも楽しそうな顔をしていて、ちょっとびっくりした。




「お腹、すいたな。」



「……あたしも。」




時計を見ると、もう午後6時。




「何か食べよっか。」




あたしは立ち上がって、キッチンに行って冷蔵庫を覗く。




豆腐、白菜、鳥団子、豚ロース、えのき………




もしかして……と思って食品棚を開けると、やっぱりちゃんこ鍋のスープが入っていた。




この前、寒い外を歩いていると、急に食べたくなったからスーパーで材料を買ったんだった。




あたしは棚の奥の奥にあるホットプレートを取り出して、ソファの前にあるテーブルに置いた。




「ちゃんこ鍋の材料しかなかったから、それでもいい?」



「あぁ。」



「じゃ、今準備するからもう少し待ってて。」



「僕も何か手伝おうか?」



「ううん、手伝ってもらうことがあるほど大変なもんじゃないから。座ってて。」




あたしはキッチンで材料を切って入れたボウルと小皿とはしをテーブルに持っていって、スープの入った鍋にボウルの中身を全て突っ込んで、温度を上げて蓋をした。




20分くらいすると、蓋がコトコトと動いたので、そのまま蓋を開けるとフワリと湯気が立った。




「わー!!美味しそう!早く食べよう!!」




2人で「いただきます」と言って、すぐに鍋をつついた。




「あ!ちょっと征ちゃん、豆腐ばっかり食べないで!」



「だって、名無しさんはあまり食べないじゃないか。」



「征ちゃんが次々取るから…ってもう無いじゃん!!」




彼の小皿には、白菜やらえのきやらはほとんどなく、豆腐で埋め尽くされていた。




豆腐、好きだったんだ。知らなかった。




「仕方がないな…ほら、少し分けてあげるよ。」



「ありが………って、ちっさ!!欠片じゃんこれ!!」



「アハハハ……」




……あれ?征ちゃんって、こんな顔して笑うっけ?




眉を下げて、口を開いて、声を上げて笑ってる。




普段の学校生活でも色んな代表の仕事をして、全国優勝レベルの超強豪の部活の部長をやって、いつもそのプレッシャーに耐えるように涼しい顔をしている彼のそんな姿を初めて見て、なんだか嬉しい気持ちになった。





そして、そんな彼がリラックスをして、思いきり笑える場所があたしの隣でよかったなぁって、あたしの家でよかったなぁって思った。冬の、少し寒い夜。
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