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□灰色ノスタルジア
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この世界に、神様なんていない。
もしいたのだとしたら、それはきっと意地悪なんてものじゃなく、極悪非道で理不尽にひねくれた白い悪魔だ。
ーー大好きな主様は、わたしの腕のなかで静かに眠っている。
おかしいな、ほのおタイプのわたしが触れているのに、主様のからだはこんなにもつめたい。
少し前までは、ほんのりとあたたかかったのに。
まるで大理石のように冷えきった主様のからだが、わたしを冷静にさせる。
とんでいた数分間の記憶とともに思い出されたのは、抱えきれないほどの後悔だった。
『さよなら、ロゼ』
ぴかぴかに磨かれたモンスターボールがわたしに向けられたとき、だいすきな主様の声が耳に届いたとき、さびしげな笑顔が、泣き出しそうになったとき。
『いかないで!!!!』
ひとりに、しないで。
ありったけの思いを込めて叫んだわたしの口から放たれたのは、赤黒く醜い炎だった。
そんな汚れたわたしのエゴが、主様をのみこんで焼き尽くそうとする。
だいすきだった横顔に炎が届いたとき、わたしは自身の犯した取り返しのつかない罪に気づいたのだった。
主様が、死んだ。
疑いようのないその事実は、頑丈な鎖となってわたしをがんじがらめにする。
苦しくてくるしくて、あがけばあがくほど鎖は強く締まっていく。
わたしの、せいで、あるじさまが、
わたしの、せいで……!
ぼろぼろとこぼれるなみだは、雫となって落ちるよりもはやく蒸発してしまう。
いっそ死んでしまいたいのに、最期のあなたの表情が、言葉が、そうさせてくれない。
あなたがいってしまう一瞬前、わたしが目にしたのはいつもと何らかわりのないあたたかな笑顔だった。
ごはんを食べているとき、遊んでいるとき、わざの練習をしているとき、バトルに勝って『よくやった』ってわたしの頭をなでてくれたとき。
ゆるやかに過ぎていく日常の中でみせてくれた、安心せざるを得ない、だいすきな笑顔で。
『ありがとう』
俺と一緒に、戦ってくれて。
そんなことを言われて、死んでしまえるはずがないだろう。
だってわたしが今あなたのいる場所に行ったとしたら、あなたはきっとかなしい顔をする。
『俺が今ここにいるのは、お前のせいなんかじゃなくて、弱い俺のせいなんだから。
お前は何も気にしないで、残りの時間を過ごすべきだよ』
あなたはきっと、そう言ってまたいつもの笑顔でーーー幾分かのさびしさがプラスされているかもしれないーーー笑うはずだ。
ただの自己満足だって、エゴだって蔑まれても構わない。
わたしを生かしているのは、存在しない神様ではなく、ちょっぴり意地悪な主様ただひとりなのだから。
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ゆるして、なんて言わないから、どうかせめて、安らかに。
…おかしいな、ハッピーエンドのつもりが程遠いぞ。