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□いつか雨だった涙
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ドアを叩く音がする。



初めはコンコンと軽く、しかし時間がたつにつれ、ドンドンと激しく。



もう何もきいていたくなくて、日高は耳を塞いだ。



ひやりと冷たいそれが、心地良い。



しかし完全には塞ぎきれないのか、どこか遠くで、ドアを叩く音がする。



日高、と呼んだのだろうか。



声の主は、未だドアを叩き続けるばかりである。



けれど、どうして、日高にはその声に応えるつもりも、ドアを開けるつもりもなかった。



ドンドン、ドンドン、日高、日高、



止まないノック音と今にも泣き出しそうな声音で馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返される己の名に、日高はうんざりとさえしていた。



どんなに強く覆っても、その音が止むことはない。



ドンドン、ドンドン、日高、ひだ



突然、不快だった音が不自然に途切れる。



日高の耳を塞いでいる手のひらが、別の誰かの手のひらによって覆われたのだ。



日高のそれよりも大きく、ゴツゴツと逞しいその手は、いとも簡単に寂しげに空いていた隙間をぴったりと埋めた。



目を閉じると、完全な闇と静寂が日高を支配した。



そこには、ただざあざあという波に似た音が流れるばかりである。




その手の持ち主には覚えがあった。



「……………タ、」



日高は誰かの名前を呼ぼうとして、けれど、飲み込んでしまった。



いつか大切だった人の名前だ。



不安や寂しさとともに飲み込まれたそれは、行き場を失って日高の中に蟠る。




「日高!!!」



瞬間、世界に音が戻ってくる。



日高の手のひらを覆っていたそれが、離れたのだ。



バァン、と一際大きな音がして、ドアが開かれる。



そこには、顔を真っ赤にして肩で息をする日高のルームメイトがいた。



「…ゴッティー」



「っも、日高の、ばか!」



なんで鍵しめちゃうの、なんで返事してくれないの、なんで開けてくれないの、なんで、なんで、なんで、なんで。



五島の口から紡ぎ出されるたくさんの″なんで″が日高を埋め尽くす。



「……なにが、あったの」



日高をこんなにしたのは、誰?



″何″とは言わずに″誰″と言った五島は、もしかしたら、もう何もかも分かっていたのかもしれない。



五島が日高の耳を塞ぐ。



ざあざあ、ざあざあと、どこか懐かしい波の音がした。



それはまるで、ノイズのような雨音だった。



「…ねえ、ゴッティー、おれ、」



日高の目から、一粒の涙が零れ落ちた。



いつか雨だった涙だ。



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ざあざあ、ざあざあ、ざあざあと。
きっと今も、雨は降り続いている。
夢小説と最近みたアニメの知識しかないのに書いてしまった。軽率。

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