Short

□tender dream
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*捏造あり。凛ちゃんが寮じゃなくてひとりぐらし。
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それは、優しい優しい夢だった。




それこそ、毒のように甘く、じんわりと染み込み、溶けていくような。




記憶の中の彼女がイビツに歪んでいく。




ーーごめんね



そんな言葉を、残して。









ガバッ




「………っ!」




びゅんっ、と風を切る音がする程の勢いで身を起こす。



「…………ゆ、め……?」




息が荒い。




嫌な汗がだらだらと背中を伝う。




「またかよ…」




これで何度目だ、と軽く舌打ちをして震える身体を無理矢理押さえ込む。




「まだ真っ暗じゃねえか。何時だよ…」




そう言ってほとんど意味をなさない目覚まし時計をさがす。




「…あー、さんじ……」




身体は泥沼にはまったかのように重いのに、眠気は一向に襲ってこない。




「こりゃもう眠れねえな…」




ジョギングでもすっか、とだるい身体を動かしてベッドを降りる。




適当な上着を羽織り、ジョギング用のシューズを履いて外にでる。




まだ朝日は昇っていない。




「…さみぃな」




身体だけじゃなく、心も。









「はよー」




「おー、宗介か。はよ」




「ああ」




始業のチャイムがなる1分前という遅刻寸前な時間に俺は教室のドアを開けた。




「珍しいな、お前がこんな時間にくるなんて」




「うっせ」




寝坊か?と若干ニヤつきながらきいてくる宗介に短く言葉を返す。




あの後、がむしゃらに走り続けていたら普段家を出る時間を優に越えていたのだ。




「なんだ、うっすら隈できてんじゃねぇか。よく眠れなかったのか?」




「あー…」




赤い髪をガリガリと掻きながら、次の言葉をさがす。




すると、実にちょうど良いタイミングでチャイムがなった。




「センコーくるだろうし、席もどるわ」




軽く手を振りつつ自分の席へと踵を返す。




「ちょ、おい凛…」




「ほれー、HRはじめんぞー」




席つけー、と気怠げなおじさんセンコーの声がする。




とてもナイスだ。




今回ばかりは感謝してやろう。




「…にしても、隈なんかできてたのかよ…」




不覚。




そういえば今朝は急いでて顔を洗うときも髪を整えるときもまともに鏡をみていない。




もっとも髪を整えている時間なんて皆無にすぎなかったのだが。









「おらそこ!遅ぇぞ!いつも自己ベスト更新するつもりで泳げっつってんだろ!そっちは飛び込みのフォームが崩れてる!もも!お前は黙って泳げ真剣に!」




つまらない授業を終えて、部活の時間。




外は生憎の雨だが、屋内にプールのある鮫塚ではそんなこと知ったこっちゃないというように今日もハードな練習が行われている。




「おーおー。荒れてんなあ、凛」




「宗介」




いつの間にやら俺の背後に立っていたらしい。




お前は忍者か。




「凛が鈍いだけだろ」




「うっせ。つーか心よむな」




「顔にかいてあんだよ、馬鹿凛」




うぐっ、と声がつまる。




そんなに顔にでてたのだろうか。




「今日のお前、なんか変じゃないか」




らしくない、と宗介が言う。




「…は?」




「よくわかんねーけど、なんか違うんだよ。熱でもあんのか?」




そう言って俺の額に自分の額をあててくる。




「っちょ、離れろよ…熱なんかねえっての」




「ならいいんだが」




よっ、と言いながら宗介が離れる。




「別に俺はいつもどおりだから、いらん心配してる暇があったら泳げ」




「ははっ、そーかよ」




じゃあももと軽く対決でもしてくっか、と言い手をひらつかせる。




「…そうだ、おれはいつもどおりなんだ」




普段と何ら変わりのない自分。




それだけを思ってただひたすらに泳ぎ、指示をだし、また泳ぐ。




こうして部活に没頭していれば、今朝の悪夢なんてすぐに忘れる。




…それでも、




それでも、いつまでもあの夢に囚われているのは、まだ何かしらの未練があるからだろうか。




「凛ー!」




「「凛せんぱーい!」」




もやもやした妄想紛いの考えから俺をはっと現実に引き戻したのは、相棒と愛すべき後輩たちの声だった。




「…なんだ、お前らか」




「なんだってなんすか!ひどいっすよー!」




「ももくんの言うとおりですよ!」




「せっかくリレーの練習しようと思ったのにな」




「…は?リレー?」




「そうっすよ!リレー!」




「なんでまた唐突に…大体次の大会ではエントリーしねぇだろうが、リレーは」




「そういうことじゃねぇよ」




「じゃあなんだって「お前を心配して、だよ」…はあ?」




わけがわからない。




なんで俺を心配してリレーをやるんだ。




そもそもなんで心配なんかする必要がある。




俺はべつに、




「お前、やっぱ変だからよ」




「え」




「そうですよ、凛先輩。山崎先輩もももくんも、凛先輩の様子がおかしい、って心配してたんです」




「いや俺はべつに、」




「べつに、じゃないっすよ!今日の先輩はいつもの先輩じゃないっす!今の先輩をみたら兄ちゃんでもきっとそう言う!」




「……おまえら…」




なんなんだこいつらは。




目敏い。




目敏すぎる。




「……ばかやろうが…」




「あ?」




「…ちょっと、なきそうじゃねぇか…」




「は」




ずび、と鼻をすする。




「どうすんだよこれっ!まじで涙でてきた!」




「っはああ!?知らねぇし!!なんだその理不尽な怒り!」




「俺だって知らねぇよ!勝手にでてくんだよ!とめろよ!」




「いや無理に決まってんだろ!あほか!」




「あほだよ!」




「認めんなよ!」




宗介VS俺の無駄であろう言い争いがギャーギャーと続く。




それをおろおろしながらみている後輩と、俺もまざりてー!とでも言いたげな表情の後輩。




なんでかわからないけど、重苦しかった気持ちが、どこか楽になった気がする。




だから、




「…宗介」




「んだよ」




「………………………ありがとな」




ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、感謝してやってもいいかな、と思う。




「…おうよ」




独りで溜め込むんじゃねぇよ、と言いながら、宗介の手が俺の頭をぽん、とたたく。




ももも、愛も、宗介も、俺も、どこか照れくさそうな、眩しい笑顔を浮かべる。




こいつらと泳げるなら、今朝の悪夢になんか囚われず、どこまでだっていける気がする。




「ありがとう」




もういちど、感謝の言葉を紡いだ。




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夢の正体みせられなかった。

凛ちゃんすきです。

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