小説
□君の優しさ
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「お母さん、そんなこと言われても」
『いいじゃない。楽しみに待ってるわね』
「本人の許可も取ってないじゃない…か」
ぼくの言葉もお構いなしに一方的に切られる電話。
受話器を置き溜め息を吐く。
事の始まりは、春休みにニューヨークにぼくが行った時に、ギイに色々な心配をさせてしまったことからだった。
両親(主に母親)がこのままではギイに悪いからと、今度のお盆休みにギイを連れて家に帰って来いと言うのだ。
勿論ギイも暇ではない。
それに、今のぼく達にはゆっくり会話出来るような時間すらも殆ど無いのだ。
何度も断ったのだが、全く聞いてもらえず、今に至る。
確かにぼくが家族とまともに会話出来るようになったのは紛れもないギイのおかげで、ぼくもギイにたくさん恩返しがしたいけど…
流石に「お盆休みにぼくの家に来て」など言えるわけがない。
どうすればいいものか悩んでいると、突然頭の上に重みを感じた。
「何溜め息吐いてるんだよ、葉山」
聞き覚えのある声に振り替えると、そこにいたのは章三だった。
頭の上に感じた重みは本だったらしい。
章三はぼくの頭の上に置いていた本を今度は自分の肩に数回トントン、と当てた。
「あの葉山が溜め息なんて今に始まったことじゃないが、聞いている周りは気になって仕方が無い」
「馬鹿にされてるような気がするけど…赤池くんはどうしてここに?」
「見て分からんのか?図書室の帰りだ」
そう言ってぼくに先程の本を見せる。
―あれ、図書室からここって正反対じゃなかったっけ。
寮に帰るルートにここは通らないはずだけど。
「で?電話の内容がそんなに深刻な事だったのか?」
「深刻ってほどじゃないんだけど…」
考えるのも面倒なので、適当に解釈したぼくは章三に電話の内容を相談してみた。