小説

□向日葵
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久しぶりにお互いの時間が取れたぼく達は、祠堂のサハリンこと温室で他愛もない話をしていた。



「あ、そういえば、ぼくと大橋先生が育てていた向日葵が咲いたんだよ」



「本当か?それより託生、お前本格的に園芸部員になったのか?」



「温室を使ってもいい代わりの条件だから仕方が無いじゃないか」



そんな会話をしていると、


「ニャァ〜」


リンリンがやってきた。



「お、リンリン。久しぶりだな」


ギイがそう言って近づくと、リンリンは後ずさる。



「やっぱオレ、リンリンに好かれてないな」


「リンリンは大橋先生と都森くんにしか懐いてないからね」


そう言って苦笑いをするぼく。


するとリンリンはとても、とても珍しいのだが、ぼく達の元に歩いてきた。


珍しすぎることに、ぼくもギイも驚いていたがギイは、


「こいつ、オレ達について来いって言ってるのか?」


リンリンの様子を見てそう言った。



リンリンはギイの言葉が分かったのか、ニャァと鳴くと歩き始めた。



「どこに行くんだろうね?」


「さぁな…」





リンリンについて行くと着いた場所は何とぼくと大橋先生が育てた向日葵が植えられている所だった。



「もしかして、これがさっき託生が言ってた向日葵か?」


ギイが尋ねる。


「うん。でも、何でリンリンがここにぼく達を連れてきたんだろうね?」


ぼくがそう答えると、ギイは何か考えてるのか真剣な顔で向日葵を見つめていた。



「どうしたの、ギイ?」


ぼくがそう聞くと、ギイは


「…向日葵で思い出したんだけどな」


未だに向日葵をじっと見つめたまま、そう言った。



「うん、何?」


「向日葵ってさ、地上の太陽って呼ばれてるんだってな」



ギイの言葉でぼくは向日葵を見た。



うん、確かに。


大きく開いた花びらは太陽を彷彿させる。



「そうだね。確か向日葵の花言葉は…」




「憧れ、熱愛、愛慕…他にも色々あるみたいだぞ?」



「へぇ…向日葵らしい花言葉だね。それより、ギイって何でも知ってるんだ」



ぼくがそう言うと、ギイは視線を向日葵からぼくに変えた。



そして、いきなりこんな事を言ってきた。





「託生ってさ、向日葵みたいだよな」






…ぼく?



急に「お前は向日葵みたいだ」と言われて驚かない人はいないだろう。




「ぼくが?」



するとギイはあぁ、と言ってまた向日葵に視線を戻した。




「託生の笑顔がさ、向日葵みたいなんだ」



「あ…」



その言葉で思い出した。


この向日葵を植えている時に、大橋先生から言われた事を。




「葉山君って、向日葵が好きなの?」


「好き、と言えば好きですけど…どうしてですか?」


「苗を植える度に嬉しそうな顔してるからね」


「ぼくが、ですか?」


「うん。…あ、そういう事か」


「?」


「崎に自分が植えた向日葵を見て喜んでもらいたいっていう心理が働いてるからかも」


「え!?いや、ぼくは別にギ…崎君に見てもらいたいとかそんなことは…」


「あ、そうなの?葉山君が向日葵好きなのって崎に似てるからだとばかり…」






「?どうした、託生?」


「確か、向日葵の花言葉って憧れとか熱愛って意味なんだよね?」


「そうだが…」



じゃあ、とぼくは言った。




「ぼくが向日葵なら、ぼくの太陽はギイだね」



それだけで聡明な恋人は分かってくれたようで。



「…珍しいな。今日は託生くんから告白してくれるなんて」



「だって…向日葵は太陽に向かって咲いてるだろ?ぼくの笑顔が向日葵だって言うなら、ぼくの太陽はギイしかいないじゃないか。花言葉だって…」



真っ赤になっているであろうぼくが言おうとした言葉は、ギイによって塞がれた。


「ん……」


ついばむようなキスから、段々深くなっていくキス。


唇が離れていくと、ギイは微笑んだ。



「今はここまでしか出来ないけど、絶対に他の太陽に浮気するなよ?」


「しないよ。だって太陽は一つしか無いじゃないか」


「…それもそうだな。あ、託生…」








「今夜、ゼロ番で待ってるからな」



耳元で囁かれた夜の誘い。


それに耳まで真っ赤になったぼくが小さく頷くと、満足そうにギイが笑った。




ねぇ、ギイ。


ギイはぼくが向日葵みたいだって言うけど、ぼくはギイも向日葵みたいだと思うんだ。



太陽の光を浴びてキラキラ光る金髪。


アルミフレーム越しでも教えてくれる、ぼくへの愛情…



ねぇ、ギイ。




僕も、君の太陽になれたらいいな。

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