小説

□君の笑顔
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「そういえば、託生ってホント1年の時は笑わなかったなー」


ギイが言った言葉で、ぼくは1年の頃を思い出した。




誰もぼくに触らないで。


誰もぼくに話しかけないで。


誰もぼくに近づかないで。





兄さんの事があり、人に触れられると発症する「人間接触嫌悪症」と言う名の壁を作っていた1年生の頃。


当時の同室者、片倉利久だけには何とか心を開いてはいたものの、ジュースなどは手の上に落としてもらわないといけなかった。


そんなぼくの心をゆっくりと溶かしてくれたのは紛れもない…ギイ。


ギイのおかげで、ぼくは嫌悪症を克服する事が出来た。



「どうせぼくは1年の頃は問題児でしたよ」


ぷくっと頬を膨らまして怒ってみた。


まぁ、本当は怒っていないんだけどね。


そんなぼくの心を見透かすかのようにギイは、


「でも、どんな託生でも託生だろ?問題児だろうと関係無い。小さい頃、俺が一目惚れした」


そう言った。


ギイはずるい。


いつでも、ぼくが欲しい言葉をくれる。


確かにぼくは1年の頃笑わなかった。いや、笑えなかった。


上級生との喧嘩にギイが仲裁に入ってくれた時もぼくはお礼の一つもなく、ニコリともせずにギイを睨んでいた。


今考えてみれば、好きな相手に睨まれる、という事はとても悲しい事のはず。


でもギイはそんなことお構いなしにぼくをいつも助けてくれていた。



そんなギイに…ぼくは、何か恩返しが出来ているだろうか…。


「まぁ、睨まれた時は流石にキツかったけどな」


…やっぱり、悲しかったんだ。


「でも、託生が笑わなくなったくらい深い事情に比べれば、俺の辛さも目じゃないだろ?」


な?と言って笑うギイ。


「…ぼく、ギイに何も恩返し出来てないよ…?」


するとギイは微笑んで言った。

「恩ならとっくに返してもらってるよ」


ぼく、何かしたっけ?



「託生の嫌悪症が治って、オレの恋人になってくれた事だよ」


目頭が熱くなる。


「そんな泣きそうな顔するなって」

「だって…だって…」


それだけでいいのだろうか。

ぼくが恋人になったくらいで、ギイへの恩は返せたのだろうか。



「オレが一番好きなのは託生の笑ってる顔だって知ってるだろ?こういう時は笑って“ありがとう”って言ってくれよ」



「ありがとう…ありがとう、ギイ…!」



釣られてギイも笑う。


良かった。


ぼく、ギイに恩返せてたんだ。





「これからも…オレの隣で笑ってくれよ?託生…」








勿論だよ、ギイ…

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