賢者の石

□二章
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さて、魔法薬学の時間が始まった。見慣れた地下牢。見慣れた薬品の数々。本来の学生生活を送っていた時は随分とお世話になったものばかり。


懐かしんでいる暇はなく、勢いよく開けられた扉から出てきたのは地下牢に相応しい大きな蝙蝠。出席を取るうち、ハリーのところで彼は少し止まった。


「ハリー・ポッター。我らが新しい―スターだね。」


低い声で馬鹿にしたような猫なで声を出すセブルス。今、彼はどんな気持ちでハリーの前に立っているのか。愛するリリーと同じ目の、憎いジェームスと同じ容姿のハリー。


フーリンは、セブルスとハリーが向かい合っているのを見て胸が苦しくなった。一番つらいのはセブルスのはずなのに、それを微塵にも出さない。いつもそうだ。彼はつらい時も何も言わない。誰も頼らない。そのくせ人のことは心配するもんだからもう目も当てられない。


彼の目は、リリーと決別した時から闇しか映さなくなった。きっと、リリーが死んだあの日からは後悔と懺悔を滲ませて。


冷たい、冷たい目をした彼は魔法薬学の魅力、危険性を嫌味と共に吐き出しそして、ハリーに突然の質問を投げかけた。


「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」


普通の一年生にはあまりに難しい質問だった。その証拠に、高らかに手を挙げているグレンジャー以外には誰もが俯いていた。


ハリーは右隣のロンに助けを求めたが、ロンに分かるはずもなく、申し訳なさそうな顔をしている。


左隣のフーリンはあまりに露骨な嫌がらせに苦笑いをしながら、口に出すと何やら言われてしまいそうなので、腰の杖を静かに抜いて机の下で振った。


そしてハリーに目配せをすれば、なんなんだという顔をされ、口パクで机を見てみろと指示を出した。ハリーがフーリンの指示通り机を見れば、今まではなかったであろう文字が浮かんでいた。


「どうした?分からないのかね?」


セブルスの意地の悪い声を聞いたハリーは顔を上げ、少しおどおどしながら机に浮かんだ文字を読んだ。


「ね、眠り薬になります。あー……あまりに強力な為、『生ける屍の水薬』と言われています。」


途端、セブルスの表情が苦々しく曇った。そして、更に質問を続ける。


「もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけてこいと言われたら、どこを探すかね?」


今回の質問も、優秀な少女グレンジャーは分かっているらしく手を一生懸命挙げていた。どう考えても無駄な努力なのだけど。セブルスの標的はハリーなのだから。


やれやれ、とフーリンはまた机の下で杖を振った。ハリーがジェームスのような子なら助けようなど微塵も思わなかったが、ここ数日共にいても悪い点は見つからず、逆に人に対する思いやりなど良い点ばかりが見えていた。だから想い人からの理不尽な嫌がらせから守ってあげようという気になったのである。


再びハリーに目配せをすると、ハリーは考え込むフリをして俯き、魔法によって浮かび上がった答えを頭に詰め込んで顔を上げた。


「山羊の胃から取り出す石で、たいていの薬に対する解毒剤…となります。」


再びハリーが難問に答えてしまったため、セブルスの眉間の皺は倍増される。スリザリンの方の席ではドラコ達が目を点にしていた。


「…モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」


この質問に対してのグレンジャーは凄かった。席から立ち上がり背筋、腕を限界まで伸ばしていた。それでもセブルスはまるで無視。


フーリンは再び杖を振って答えを机に浮かべた。ハリーも同じように見て答える。


「モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、別名アコナイト。とりかぶとのことです。」


すっかりこの一種のカンニングに慣れたハリーは堂々と答えた。セブルスは忌々しげにハリーを一瞥すると、やっと視線を全体に向けて今のをノートにとるように促した。


小声でハリーに「ありがとう。」と言われたので「どういたしまして。」と返してからは調合に入った。


内容はいたって簡単なおできを治す薬。二人一組での調合だが、フーリンはハリーとロンが組んでしまったことでよくある余りになってしまったので、ハリーとロンの隣で一人作業になってしまった。
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