アンドロイドになった日
□七匹目
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「千里、マタドーラ。着いたであ〜るよ」
優しい声と共に丸い手が千里とマタドーラを揺らす。
「ん〜あと五分〜」
ごろりと身体を反転させると、ごつんと硬い何かに当たった。
「ふぁっ!?何!!??」
驚いて目を開くと、そこには赤い身体から伸びる白く立派な角。
「……もーマタドーラ!!!」
マタドーラの角が当たったのだと知ると、無性に腹が立って隣で未だに熟睡している彼を揺らした。
「ん……」
マタドーラは千里の方を向くように寝返りをうち、そして手を伸ばした。
その手はマタドーラを起こそうと揺らしていた千里の腕を掴み、彼自慢の怪力でぐいっと強く引っ張られた。
バランスを崩し、マタドーラに抱きしめられる形になる。
「ちょ、寝ぼけるなマタドーラ!」
抱きしめてくる力が強すぎて千里は抜け出せないどころか、暴れることすらできなかった。
「こ、困ったであ〜るな……」
最初に起こしにきたドラメッドも頭を抱えている。
「何しているんですか……って、エル・マタドーラ!!??何してるんですかこの馬鹿牛は!!??」
いつまで経っても降りてこない千里達を心配して来た王ドラは驚愕の声をあげた。
「王ドラ〜どうにかして〜」
王ドラに助けを求めてみるが、彼は顔を赤く染め上げ、そして首が千切れるのではと心配するほどに首を振った。
「ぼぼぼぼぼぼぼ僕、女の子苦手なんですぅぅぅぅぅぅ」
カンフーの達人である彼なら力もそれなりにあるし、マタドーラの拘束も解けると思ったのだが……どうやらそうもいかないらしい。
「我輩の魔法を使えばすぐ解けるであ〜るが……そうすると千里にまで当たってしまうであ〜る……」
どうにかマタドーラだけ起こさないといけない。
でもマタドーラは起きる気配はない。
「え〜折角の遠足なのに……マタドーラ!!!」
このままバスに置き去りなんて、そんな悲しい遠足聞いたことがない。
千里は必死にマタドーラに呼びかける……が。
「むにゃむにゃ……どら焼きは……串焼き……」
この始末だった。
「んも〜……マタドーラ!!!エル・マタドーラ!!……エル!!!!!」
出る限界まで大声で彼の名前を呼んだ。
ドラメッドと王ドラは思わず耳をふさぐ。
これで起きないならもう……ドラえもんを呼んで道具を出してもらおう。
そう考えた時。
「…………千里?」
目の前にある彼の口が動いた。
特徴的なダミ声が耳に入る。
「やっと起きた〜……」
ほっとして力が抜け、抱きしめられるままマタドーラにのしかかる。
「!!!???どうなってんだ!?」
ひとり状況が分かっていないマタドーラは腕の中の千里を見る。
かつてない近さにどうして良いか分からず、傍で唖然としている王ドラとドラメッドに説明を求めた。
「お主が寝ぼけて千里を引っ張ったのであ〜る」
「全く破廉恥です」
責めるような二人。
だが当の本人はそんなことはどうでもいいと、唐突に起き上がった。
「ねぇ、そんなことより早く行こう!他の四人待たせちゃってるでしょ!」
固まっているマタドーラの手を引き、「早く早く」と起こしに来た二人も急かす。
遠足はまだ始まったばかり。