賢者の石

□九章
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鏡を探さないように、とハリーを説得してからもハリーは落ち着かない様子だった。聞いたところによると、両親が緑色の閃光と共に消える悪夢を毎晩見るのだそうだ。


そればかりはフーリンにはどうしようもなく、ただ彼が早く忘れられるようにと別のことをあれこれ話すしかなかった。


新学期が始まる一日前にはハーマイオニーが帰ってきた。彼女がいない間に起きた出来事を話して聞かせれば、驚いたり呆れたりと百面相をしていた。





新学期が始まると、ハリーはクィディッチの練習で忙しそうだった。毎日のように泥だらけになりながら、一生懸命練習に励んでいた。あれくらい打ち込むものがあれば、悪夢も見なくなるだろうとフーリンは安堵していたが、問題はその後である。


グリフィンドールの談話室で、ロンとハーマイオニーがチェスをしているのをフーリンはロンの隣で見ていた。そこに、練習から戻ったハリーが告げたニュースは全員の動きを止めるのに十分な破壊力だった。次のハッフルパフとの試合、審判はセブルスがやるというのだ。


「試合に出ちゃ駄目よ。」


「病気だって言えよ。」


などなど、ロンとハーマイオニーは必死にハリーを止めたが、ハリーは頷かない。グリフィンドールのシーカーはハリーしかいない。出場すらできない状態にはしたくないのだそうだ。


(……むしろセブがいないと貴方危ないのよ。)


なんてことを言えるはずもなく、フーリンは終始黙っていた。


その時、ネビルが談話室に倒れこんできた。両足はピッタリとくっついていて、「足縛りの呪い」をかけられたことはこの場にいる全員が分かったことだろう。


フーリンはその場で杖を軽く振った。呪い解除はどこかの悪戯仕掛け人のおかげで慣れていたため、無言呪文でも十分効力を発揮する。


「ネビル……もしかしてマルフォイにやられたの?」


フーリンがそう問えば、ネビルは震えながら頷いた。こんなことするのはあの少年しか思い浮かばなかったし、予想通りだった。


「図書館の外で……誰かに呪文を試したかったって……。」


フーリンは呆れて溜息しか出なかったが、ハリー達は酷く憤慨していた。


「マクゴナガル先生に報告しなさいよ!」


ハーマイオニーが急き立てたが、ネビルは首を横に振った。


「これ以上面倒はイヤだ。」


気弱な少年らしい返答だった。でも、それでは何も解決しないし、ネビルにもドラコにもよくないだろう。


「ネビル、いじめっ子を撃退する方法っていうのは二通りあるわ。一つ目は完全に無視すること。何をされても動じない、感情を出さないの。勿論何をされてもそれなりに対処しないといけなくなるけどね。二つ目は、相手以上の力でやり返すこと。相手に、こいつには勝てないと思わせるの。貴方にはそのどちらも無理ね。」


フーリンの言葉に、ネビルは俯き、ロンやハリーは何を言い出すんだとこちらを見た。


「でもね、マルフォイくらいのいじめっ子なら少し反撃するだけでも十分。だってあの子、悪ぶってるだけだもの。ある特定の人物に嫉妬してその周囲を蔑みたいだけ。プライドの高い子供なの。」


“子供”という単語に、ハリーとロンは噴出したし、ハーマイオニーは「貴女いくつよ……。」と言い出す始末だ。ネビルも少し笑顔が戻って顔を上げた。


「だから、ほんの少し言い返してみたら?」


ね、とフーリンが首を傾げれば、ネビルはまだ少し迷いながらも一応首を縦に振った。


「ネビル、これ……今度は言い返せるように。」


ハリーはネビルに、ハーマイオニーに貰ったらしい蛙チョコレートを渡した。ネビルはそれを受け取って有名魔法使いのカードだけハリーに渡して自室に戻っていった。


「これ……ダンブルドアの……あっ!」


ハリーは何かを思い出したように顔を上げた。


「これだよ!フラメル!錬金術の!」


有名魔法使いのカードの裏には、その魔法使いについての大まかな紹介文が記載されている。そこには、ダンブルドアとフラメルが共同研究をしたと書かれていた。ついに見つけたのだ、フラメルという人物を。


ハーマイオニーはそれを聞いた途端女子寮に走って行って大きな分厚い本を持って戻ってきた。その本にフラメルのことが詳しく載っているらしく、ハーマイオニーはすぐさま詳細を読み上げた。


「ニコラス・フラメルは、我々が知る限り賢者の石の創造に成功した唯一の者!」


ハリーとロンは賢者の石が何なのか分からないようで、首を傾げただけだった。


「賢者の石っていうのは、いかなる金属も黄金に変え、飲めば不老不死になる『命の水』の源でもあるの。簡単に言うと……金にも命にもなる、ほぼ全人類が欲するだろう力を秘めた石。」


フーリンが簡潔に注釈を入れると、ハリーとロンは納得したようだった。と、同時に三人は三頭犬が賢者の石を守っているに違いないと確信をした。少しずつ危険過ぎる道へと入っていく年端もいかない子供達に、フーリンは頭を抱えるしかなかった。





グリフィンドールとハッフルパフのクィディッチの試合の日がやってきた。ロンとハーマイオニーはここ最近「足縛りの呪文」を練習していた。セブルスが少しでも怪しい素振りを見せたらこの呪いをかける作戦らしい。フーリンにもそうするように、とハーマイオニーが言ったが、勿論彼女は「はいはい」と適当に返事をしていた。


もし、ロンやハーマイオニーがセブルスに呪いをかけようとしたならば、彼女はそれを邪魔するつもりでいた。


(子供って単純でいいわよね……。)


何も知らない子供というのは時に微笑ましく、時に憎らしいものである。フーリンが意気込んでいる二人を尻目に溜息をついたことは恐らく隣で様子を伺っていたネビル以外知らないだろう。
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