賢者の石

□七章
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気がつけば、フーリンが再び学生生活を始めて数ヶ月が経ち、十一月になっていた。この前ハロウィーンだったのだから当たり前といえば当たり前だが、月をまたぐと時の流れを感じやすいものだ。


凍りついた山々と湖。神秘的な風景だと言えば聞こえは良いが、寒いだけである。


土曜日はハリーのクィディッチの初試合だ。何故か相手はスリザリン。まさか最初から当たるとは思わなかった。卒業生のフーリンとしては複雑な気持ちだ。


ハリーがシーカーだということは秘密であったはずなのに、何故か情報は漏れていた。まあ、噂好きな学生など腐るほどいるだろうから、犯人は定かではない。


ハリーは百年ぶりの一年生シーカーとあって、期待の目で見られることが多い。また、それとは逆に貶す者もいる(その多くはスリザリン生であると思われる)。そのどちらも、ハリーに大きなプレッシャーを与えた。





あの事件以来、共に過ごすハーマイオニーの態度はとても柔らかくなっていた。ハリーのデビュー戦前日のことである。


フーリンは三人と共に、休み時間に中庭に出ていた。ハーマイオニーは温かい青い炎を出してくれた。四人で暖まっている時、タイミングの悪いことに、セブルスがやってきた。


また何かいちゃもんでもつけにきたのか…と、ここまで彼を陰険にしてしまった原因だろうハリーの父親を恨む。いや、もともとこの手の才能というか、素質はあったと思うが開花させたのはきっとジェームズだ。


あれからもちょくちょく薬を調合しつつ彼の怪我の手当てをしているが、流石と言うべき番犬。なかなか怪我はよくならなかった。今も微妙に足を引きずっている。


そんなセブルスがこちらにきて言った今回のいちゃもんはハリーの持っていた本であった。四人で後ろに隠した炎でなかったのは不幸中の幸いである。


「図書館の本は校外に持ち出してはならん。よこしなさい。グリフィンドール五点減点。」


「そんな規則アリマセンヨー。」と言いたかったフーリンだが、今は彼と同じ立場ではない。下手に友達感覚で話してはならないのだ。


そうして去って行った彼の歩き方の違和感に、三人は目ざとく気がついた。それでも、三頭犬の仕業とまでは気がついていない。そのことにほっとしつつ、四人は次の授業へと向かった。





その夜、フーリンは一人でセブルスの部屋にきていた。怪我の手当ての為である。だが、まずは調合から始める。彼女からすれば大した難易度の薬ではないので、すぐにできるし彼の常備薬を減らすのも些か忍びないと思ってのことだった。


机に向かって無言でレポートの採点などをしている彼に、背を向けてたまにセブルスに話しかけつつ調合をするフーリン。この静かな空間は、二人にとってとても落ち着けるものだった。


「ねえセブ?」


「なんだ。」


こちらに目も向けない彼。だが、彼女もそれは一切気にしていない。


「昼間ハリーから本取り上げたのってただの嫌がらせだよね?」


心なしか楽しそうに問う彼女に、セブルスは少し不機嫌そうに答えた。


「だったら何だ?我輩に説教でもするつもりかね?」


「別に?セブがハリーを嫌う気持ちはなんとなく私にも分かるから…ま、何も知らないハリーからしたらとんだとばっちりだけどね。」


フーリンは笑いながら言う。


「お前はどっちの味方なんだ。」


呟くようなその言葉に、彼女は即答する。


「私はいつでもセブの味方だよ。今も、昔も、これからも…だから、もし何かあって私がセブの敵になるようなら遠慮なく殺して。どうせ死ぬならセブに殺されたいの…真の友に。」


そんな物騒なことをあっさり言うフーリンだが、全て本音であり、それをセブルスは理解していた。だから彼も答えはあっさりしている。


「いいだろう。お前を殺すのは骨が折れそうだがな。」


セブルスのその答えに、フーリンは嬉しそうに笑った。そのリアクションに彼は渋い顔しかしなかったが、それがセブルスという人間だと彼女は理解している。どれだけ眉間に皺を寄せても、不機嫌そうな顔をされても、彼の裏側を知っている彼女からすればただ愛おしくしかならない。


「……フーリンは三頭犬の静め方を知っているか?」


居心地の悪い空気を変えようと思ってか、セブルスが聞いてきた。


「いいえ?それは飼い主のハグリッドとダンブルドアしか知らないんじゃない?」


フーリンがそう言えば、馬鹿正直なハグリッドを思ってか、彼は頭に手を当てた。


「知られるのも時間の問題…というやつだな。」


「さすがにそんなペラペラとは……いや、かまかけたりしたら引っかかりそう。」


なんて言っても相手にしている敵は、あの狡猾なヴォルデモート卿である。口でハグリッドが勝てるとは思えない。フーリンですら簡単に騙すことは可能だろう。


「その辺りもしっかりと見張って……誰だ!」


ガタリ、と部屋の外で物音がした。フーリンは急いで扉を開けて廊下を確認する。よく見知った少年が、駆けていく後姿が見えた。


くしゃくしゃな黒髪とあの背格好。ハリーであると確信した。


「あーあ…どうするセブ。」


扉を閉めて先程の会話内容を思い出す。今度はしっかりと防音魔法をかけてから。まあ、そこまで深い内容は話してなかった。が、セブルスの怪我を知っている彼らに、その原因が三頭犬であると知られてしまったかもしれない。


「放っておけ。どうせあやつらには何もできない。……手出しはさせるな。」


「勿論。あ、薬平気かな。つい目離しちゃった。」


元々怪我の手当てにきて、薬の調合をしていたのにうっかり世間話に花を咲かせて盗み聞き犯を確認してしまった。


「馬鹿者。私が完成させておいた。そんなに詰めが甘くてよく私の役に立ちたいなどと言えたものだな。」


「ふふふ……。」


嫌味を言われた彼女は笑い、言った本人は動揺した。彼女も、別に嫌味を言われて嬉しいとかそういうことで笑ったわけではない。彼がほんの少し、素を見せたことが嬉しかったのだ。つい変わった一人称に気がついたのはフーリンだけで、恐らく指摘したら戻してしまう。


「何笑っている。」


「内緒。」


フーリンに言う気がないと分かりつつも一応聞くセブルス。予想通りの答えに舌打ちしつつ、治療をするならさっさと済ませと伝えた。それに彼女は素直に答え、治療が終われば二人で紅茶を飲む優しい時間が過ぎていった。
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