賢者の石

□五章
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夜十一時。約束の決闘へ向かおうとするハリーとロン。フーリンはそれを見送ろうと談話室にいた。本当はついて行きたかったが、介添人は一人しか連れて行けない。


しかし、談話室を出ようとした二人に後ろから少女が呼び止めた。グレンジャーである。


「ハリー、まさか貴方がこんなことするとは思わなかったわ。」


失望したというように肩をすくめる少女に、ロンはカンカンだ。おせっかいだとでも言いたいのだろう。ハリーも彼女の登場には少々イラついていた。


当然と言えば当然の行動だ。見つかって減点されれば、困るのはハリーとロンだけではない。集団の生活というのは本当にやっかいなのだ。


「レリエル、貴女はどうして止めないの?もう少しまともな人だと思っていたわ。」


矛先はフーリンへと向かったが、苦笑いを返すしかない。正直、若い少年の好奇心や冒険心といったものを押さえ込める自信はないし、寮杯にも全く以って興味がないので減点なども気にしていないのだ。


ハリーとロンは彼女を無視して肖像画から出たが、それで諦めてくれるようなグレンジャーではなく、なんと二人について行ってしまった。


ついて行こうか一瞬迷ったものの、まあ四階の例の廊下に行くことなんて恐らくないだろうからと放っておくことにした。





談話室で待つこと小一時間くらいだろうか。ハリー達が息を切らせて帰ってきた。何故か行きは見なかったネビルも一緒にいる。それにしたってへたり込む程走るなんて何かあったのだろうか。


「何があったの?」


落ち着いたのを見計らって聞けば、ロンが口を開いた。


「四階の…例の立ち入り禁止の場所に巨大な三つ頭の犬がいたんだ。怪物だぜ…。」


ハーマイオニーは不機嫌な顔をしてそれに補足する。


「あの犬、何かを守っているのよ。仕掛け扉が見えたわ。殺されるかと思った!もっと悪ければ退学ね。さしつかえなければ休ませて頂くわ。」


彼女は随分と棘のある言葉を残して女子寮に戻って行った。それにロンは引っ張り込んだのは僕達じゃないとかブツブツ文句を言っている。止めようとして結果的に規則を破ることになってしまえばそれも致し方ないのかもしれないが、あれでは喧嘩を売っているように聞こえる。


隣では、それを無視したハリーが独り言を呟いていたが…どうやらアレに気付き始めたようだった。


これは首を突っ込むだろうな〜と思いつつ、これからはますます彼らをしっかり見張ろうと心に決めて、フーリンは女子寮に戻った。





さあ、次の日からはなかなかに大変だった。ハリーとロンは三頭犬の守る物に興味津々で、いつかは暴いてやると言わんばかりだった。それを宥めようにも、二人は耳を貸さない。


フーリンにできることと言えば、二人の傍に極力付き添うことくらいだった。ハリーは守られているという自覚がないにしろ、もう少し自分の身を大切にすべきだと思う。


それからしばらくして、ハリーの元に大きな包みが届いた。マクゴナガルからの箒である。ハリーはクィディッチのシーカーとして、これからは練習に参加せねばならない。大量の宿題との格闘と並行してやるのは大変だろう、とフーリンは彼の宿題を度々手伝っていた。


彼はとても忙しそうにしていたが、とても楽しそうだった。きっと充実している毎日なのだろう。そんな少年を微笑ましい気持ちで見守る毎日がしばらく続いたが、その平穏は長くは続かない。





ハロウィーンの日の妖精の魔法の授業で、事は起こる。浮遊の魔法の授業で、二人一組の練習だったのだが…組み合わせが悪い。ロンとグレンジャーが組むことになったのだ。様々な安全面を考慮し、フーリンはネビルと、ハリーはシェーマスとだった。ここらは問題ない。問題は最初の二人組である。


発音と手の動かし方がこの呪文のポイントだとフリットウィックは言うが、説明を聞いただけでできるのであれば誰もが偉大な魔法使いになれるわけで…。


この前この呪文でフーリンがネビルを助けたことがあるのは全員が知るところなので、フーリンは周りに教えることに精を出していた。まずはパートナーのネビル。彼を教えるのは大変骨が折れた。仕方がないので、最終的に二人羽織の要領で後ろからネビルの腕を動かすようにやってみることにした。


「いい?ネビル、落ち着いて…自信を持ってやってみて。この呪文は失敗しても人を傷つけることにはならないから。」


「う、うん…。」


せーのと声を掛けてネビルの杖を持った手をビューン、ヒョイと動かせば、ネビルはこれまでにはない落ち着いた声で呪文を唱えた。


「ウィンガーディアム・レヴィオーサ。」


目の前の羽はふわっと少し浮いたが、そこでネビルの集中が途切れたのだろう、また下に落ちてしまった。それでも、少しでも浮いたことにネビルだけでなくフーリンやその周りも驚き、喜んでいた。


「やったね!ネビル!」


そうフーリンが言えば、ネビルは照れたように笑った。そんな幸せな空気の横では険悪な空気が充満している。ロンとグレンジャーだ。


「そんなによくご存知なら、君がやってみろよ。」


ロンの怒鳴り声が響き、直後、グレンジャーが呪文を唱えて見事成功させた。フリットウィックがベタ褒めだったことも、ロンには気に食わなかったんだろう。


授業が終わってからのロンは、彼女に対する悪態を周りの目も気にせず吐き出した。あまりに大きな声。本人に聞こえたんだろう、後ろからグレンジャーが追い越して走り去った。泣いていたように見えた。
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