賢者の石

□四章
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木曜日。今日は新入生からしたら楽しみで仕方がないであろう飛行訓練の日である。が、グリフィンドール一同は少々テンションが下がり気味だ。


理由はただ一つ。スリザリンと合同だから。


元々はスリザリン寮であるフーリンとしては気持ち的に複雑だ。正直スリザリン生とも仲良くやっていきたい。まあ、いがみ合うのが宿命みたいになっているこの二つの寮では無理だとは思うが…。


ライバル同士という関係性は悪くないと思うが、行き過ぎるとただの偏見差別である。もう少しどうにかならないものか…と思いつつ、そういえば我が親友も(仕方ないとはいえ)偏見差別があったと思い直し、根が深すぎる問題だと早々に諦めた。



朝食の時もひと悶着あった。ロングボトムに送られてきた思いだし玉を、ドラコが取り上げたのである。まあなんと幼稚なことかとフーリンは呆れるしかない。


(ルシウス先輩は一体どんな教育をしたのか…。)


美しすぎる金髪ロングを得意気になびかせた先輩を思い出しても溜息しか出ない。マグゴナガル先生が上手いこと通りかかってそんなに揉め事にはならなかったが、この後の飛行訓練は嫌な予感しかしなかった。



さて、いざ飛行訓練となるとなかなか大変なものだ。特に、今まで飛ぶ箒などと戯れたことのないマグル出身の子なんかは本当に苦労する。


例の優秀なグレンジャーも、こればっかりは知識で解決しない。それでも本を読んで予習をしておいてある辺り、本当に真面目だ。


平坦な芝生に整然と並べられた箒の傍に、二つの寮生達が立ったのを確認したフーチは、右手を箒の上に突き出して「上がれ!」と言うように指示を出した。


言うことを聞いた箒は少なかったが、ハリーの箒はすぐさま飛び上がって彼の手に収まった。あれだけ予習をしたらしいことを公言していたグレンジャーの箒も、転がっただけで飛び上がりはしなかった。


次に、またがる方法や握り方など基本的なことを学んだらいよいよ浮上である。


フーチの笛が鳴ってから浮上の予定だったが、ここでも彼がヘマをする。察して頂けるだろうか。ロングボトムである。


恐らく緊張のあまり頭が真っ白になっていたのだろう彼は、笛が鳴る前に浮上し、そのまま上がっていってしまったのである。


戻ってこい、とフーチが強く言っているが、戻れたらロングボトムはすぐにでも戻ってきているんじゃなかろうか。彼は箒を扱えない。自分の遺志とは裏腹に上がっていく箒に、恐怖している。


教師であるフーチがすぐにでも動くべきなのだが、その様子は全くない。仕方ない、とフーリンが箒に乗ろうと思った時だった。ロングボトムが今にも箒から落ちそうになっている。箒では間に合わないと、フーリンはすぐに杖を構えた。


「ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)!」


ロングボトムに浮遊魔法をかけて、ゆっくりと地面に降ろしてゆく。周りも驚いていたが、一番驚いていたのはロングボトムであった。暴れ箒は勝手にどこかへ飛んでいってしまったが、ロングボトムは無事だ。


「平気?ロングボトム。」


「うん…レリエルって凄いんだね。また助けられちゃった。あ、ねえ…せっかくだから僕のこともファーストネームで呼んでよ。」


ほっとした笑顔の彼に言われ、特に断る理由もないし、短くなるのでよろこんで承諾した。ここまでは良かった。彼はほっとした拍子に腰を抜かしてしまい、へたり込んでしまったのだ。


腰を抜かして結局医務室へ運ばれることになったネビルを担いだフーチがいなくなると、スリザリンからは彼を馬鹿にする声が聞こえるようになった。


「あいつの顔見たか?あの大まぬけの。」


率先して言い始めたのはやはりドラコである。いつかまたルシウス先輩に会えることがあれば是非子育て方法を聞きたいところだ。


「やめてよ、マルフォイ。」


止めたのは同寮のパーバティ。


「あのチビデブ泣き虫小僧に気があるわけ?」


それを冷やかすように言ったのはスリザリンのパンジィという少女だ。


段々と悪くなっていく空気。だが、フーリンに止めることはできないだろう。はあ…と小さく溜息をつけば、矛先はこちらに向く。


「貴女…前の魔法薬学の授業でもでしゃばってた子よね?今回もチビデブを助けるなんて保護者か何かかしら?」


馬鹿にするように言うパンジィ。だが、11の子供にムキになる程フーリンは若くはなかった。むしろ反抗期か思春期か…と微笑ましくなるレベルである。


「覚えててもらって光栄だわ。そうね〜貴女がそう思うならそれでも良いんじゃないかな。」


そう返せば彼女は分かりやすく面白くなさそうな顔をした。その様子を見ていたドラコがすっと前に出てくる。


「ふん。余裕でいられるのも今のうちだぞオークス。皆これを見ろ。」


ドラコが手を上に挙げて皆に見せたのはネビルの思いだし玉だった。きっとさっき落としたのだろう。


「こっちに渡せマルフォイ。」


いつもとは違う静かな声でハリーが言った。
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