賢者の石
□序章
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カツン、カツン・・・と自分の靴の音だけが鳴り響く廊下。
フーリンは先程、ここホグワーツの現校長であるアルバス・ダンブルドアと話をしてきたことを思い出していた。
「貴方には話を通した方が良いと思いまして・・・。まあ、私が言うまでもなく入学の手続きの時点でバレてしまうとは思いましたが。」
温かな火が灯る暖炉のある校長室でのことだ。目の前の優しげな顔をしたおじいさん・・・ダンブルドアは、ニコニコとしながら世間話でもするような感じだった。
「おお・・・久し振りじゃのうフーリン。」
「私を覚えておいででしたか。恐れ入ります。」
心底会えて嬉しいというように目を細めるダンブルドアに、少々彼女は困惑した。
ダンブルドアに隠し事ができる自信はなかった。だから先に話を通してしまおうと考えて十数年ぶりにホグワーツにきたというのに、彼は一切驚きというものを見せなかった。
こんな姿をしているのに。
「当然じゃよ・・・あれだけ優秀で勤勉な生徒はなかなかおらなんだ。じゃがおかしいのう・・・わしの記憶が正しければ、フーリンは卒業してから十数年経っておる。何故・・・そのような姿に?」
そのような。そう、ダンブルドアの前に立って話しているのはどれだけ多く見積もっても大人とは程遠い姿をした少女だった。
「・・・“例のあの人”の呪いを受けてしまって。」
彼女の言葉を聞いても、ダンブルドアは身じろぎ一つしないどころか顔は笑顔のままだった。
ただただ、昔の教え子との会話を楽しんでいるような。それでいて、彼は色々と考えを巡らせているのだろう。
「・・・では、君はこちら側に着くということで合っておるのかの?」
優しい口調は崩さない。でも、その言葉には確かな重みを感じた。
「・・・はい。私は・・・リリーを守れなかった。結果、あの人を悲しませてしまった。次こそは・・・あの人の守ろうとする人を守ってみせます。この命に代えても。」
フーリンは強い瞳で、ダンブルドアの質問に答えた。嘘はない。あの人の目的こそが、私の目的だから。
不器用で、優しい・・・私の最愛の人。
「そうか・・・。それで?セブルスにはここに入学する旨は伝えたのか?随分とおぬしを捜しておったよ。あの場にフーリンの遺体はなかったからの。」
ズキン・・・と胸が痛んだ気がした。彼は優しいから、心配してくれたのだろうか。
「・・・今のところ伝える気はありません。私はリリーを守れなかったし・・・その後何も言わずに勝手に姿を消した身ですから。」
どんな顔をして会って良いか分からない。フーリンは気まずげに俯いた。
「わしは伝えるべきじゃと思うが・・・まあ良い。おぬしの好きにしなさい。ところで、姿を消していた間は一体どこで何を?」
「各国を回り、様々な魔法の知識、技術を身につけてきました。来るべき日の為に。」
私の言葉に、ダンブルドアは満足げに頷いた。
「準備万端ということじゃの。期待しておるよ。どうかあの子を守っておくれ。」
「・・・もちろんです。」
それからは部屋を退出し、廊下を歩く今に至る。
他の教師陣に見つかったら面倒なことこの上ないが、それなりに隠れたり、誤魔化したりする技術も身につけてきたつもりなので、こうして昔を懐かしんでいるのだ。
リリーの息子、ハリー。
今度こそは必ず守ると見守る月に誓う。