アンドロイドになった日

□六匹目
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「全校遠足?」


楽しげな単語に千里は思わず顔を綻ばせた。


しおりを配られると共に日程の確認等を担任のロボットがしていくが、そんなものは誰も聞いちゃいない。


わいのわいのとそれぞれ騒がしいのが常なドラえもんズクラス。


ただ一回だけ彼らがひとつになる瞬間があった。


「当日は班行動とする。班決めはくじ引きにするかそれとも「自由ーーー!」


班行動。それは学生達の課外活動の全てである。


従って、くじ引きなどという完全運任せのギャンブルは皆避けたい。


そして、いつもの仲の良いメンバーで組みたい。


それが満場一致の意見だった。


「……よし、じゃあ自由にする。ただし、仲間外れや喧嘩が出た瞬間くじ引きにするからそのつもりで」


先生のその言葉を待ってましたと言わんばかりに、クラス全員が組もう組もうといつもの友人達に声をかけている。


我らが夢主、千里はというと……。


(やっべどうしよう……)


千里は迷っていた。


図々しくドラえもんズに突撃してもいいのか。


いや、所詮自分は余所者。本来存在しない者。


ならば大人しくモブ諸君と背景に紛れるのがいいんじゃないか。


だが、生憎千里にモブの友人はいない。


つまり気高きぼっちである。


冷や汗をかきながら席で俯いている千里に、ぽんっと丸い手が乗った。


「どうしたんだ?千里」


振り返れば赤い牛。


何故か不敵な笑みを浮かべている彼は薔薇を咥えている。


(どこから出したんだろ……四次元ポケット?でもなんで薔薇?道具でもなんでもないよね?)


訝しげな千里に気付いているのかいないのか、マタドーラは薔薇を差し出してきた。


「可愛いセニョリータに暗い顔は似合わないぜ?さ、早く俺達の班に」


薔薇を受け取った千里の空いている手をさっと取って、見慣れた猫型ロボット集合班の席へと連れてこられた。


皆それを特に気にしている様子はない。


「千里さん。嫌ならその馬鹿牛の手なんて振り払って良かったんですよ?」


開口一番マタドーラに喧嘩を売ったのはいつものカンフーの達人だ。


「王ドラ、やめるであ〜る。折角楽しい遠足の打ち合わせをするのであ〜るから」


即座にドラメッドが止めに入った。


「そうだよ〜それに、喧嘩したらくじ引きになっちゃうんだよ」


ドラリーニョも続いた。


王ドラは「はいはい。少しからかっただけですよ」とそっぽを向いた。


「あの、それで……私はこの班に入っていいの?」


マタドーラに連れてこられるがままに来てしまったが、連れて来たのは彼の単独行動なので全員が快く受け入れてくれたわけではないだろう。


迷惑ではないのだろうか。


「何言ってるの?当然でしょ。一緒に楽しい遠足にしようよ」


ドラえもんはニコニコと笑った。


隣でドラニコフも頷き、他の皆も今更何を言っているんだと千里を見た。


「皆ありがとう……」


優しい猫型ロボット達には涙がちょちょぎれる。


「ところで、遠足ってどこ行くんだっけ?」


ドラリーニョが首を傾げて言った。


話を聞いていなかったのか、彼のことだから忘れてしまったのかは分からないが、肝心なことを知らないらしい。


「炎陽公園ですよ。アスレチックが有名な所で、未だかつて制覇された人はいないとか」


王ドラが丁寧に説明する。


アスレチックと聞いて、千里に不安がよぎった。


引きこもりであった彼女に運動神経というものは存在しない。


彼女の過去の栄光といえば、小学校の短距離走の時に、一体どんな呪いにかかったのか同じレースで走る子供達が当日に全員体調不良で欠席し、不戦勝で勝利を勝ち取ったことくらいである。


長距離走をさせれば他の子供達と随分な大差をつけてビリでゴールだった。


その時の恥ずかしさを思い出すと布団に顔を埋めたくなる。


学校中の人間と保護者による応援。サ○イでも流れてきそうな雰囲気だった。


あんな思いはもうごめんだった。


「誰も制覇したことがない?なら、俺達が一番最初の制覇者だな!」


自信満々に言ったのはキッドである。


嫌な空気だ。最悪なことに、その空気は他のメンバーにも伝染する。


「当たり前だ!俺達の力、見せてやろうぜ!」


「粋がって足手まといにならないで下さいねエル・マタドーラ」


「わーい!楽しそうだね!」


マタドーラ、王ドラ、ドラリーニョも乗り気である。


「わ、私……運動できないんだけど……ナ」


千里の呟きはドラニコフ、ドラえもん、ドラメッドには聞こえていたみたいで、それぞれ肩を軽く叩いてくれた。


「大丈夫だよ……僕も運動できないし……」


「我輩も苦手であ〜る」


そもそもあまり肉体派ではないドラえもんとドラメッド。


仲間がいて少し気は楽になったが、それでも制覇を目指すとか抜かしている残りメンバーがいるとなると……。


「ガウ!」


「ドラニコフ……ごめん、言葉は分からないけど慰めてくれてるのかな?」


自分に任せろと言いたいのか、ドラニコフは胸を叩いて見せた。


まぁ、できないのが自分ひとりでないなら大丈夫だろう。


千里は、そう高を括ってしまうことにした。


「じゃ、班も決まったことだし質問がなければ今日はこれまで!」


先生はそう言ってホームルームを終わらせようとした。千里はすかさず真っすぐ手を上げた。


遠足と聞いたらこれだけは聞かねばなるまい。


「千里、何かね?」


「バナナはおやつに入りますか!!??」


一時の沈黙。終業を告げるチャイムが虚しく響いた。
 

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