アンドロイドになった日
□三匹目
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道具実践の授業が終わり、どうやら次は昼休みらしい。校長からせしめたお小遣い(元々持っていたお金は古銭として扱われている為使えない)を手に千里は立ち上がる。
「千里も購買?」
立ち上がった所にドラえもんが声をかけてくる。
「もってことはドラえもんも?」
だが、彼の手には弁当らしき風呂敷が握られている。予想通りドラえもんは首を振った。
「違う違う!僕はお弁当持ってきてるよ。購買に行くのはキッドとマタドーラだけ」
そういえば、ドラえもんズの中でその二人だけが今この場にいない。いくらなんでも行くの早過ぎやしないだろうか。
「千里も行くなら急いだ方がいいよ。まぁその……千里は女の子だし、あそこに行くのはあんまりおすすめしないけど」
「ガウ……」
歯切れの悪い言い方のドラえもん。ドラニコフも力なく言った。そんなに壮絶なのだろうか。ならば早く行かねば。
「ドラえもん、私、購買の場所が分からなくてさ。案内してくれない?」
ドラえもんは頷くと、すぐに案内をしてくれた。
この学校は千里が元いた高校より段違いに広い。迷子になりそうな程複雑で、そしてそれだけ多くのロボットがいた。
購買はわりと分かりやすかった。と、いうのも凄い人だかりができていたからである。凄い、という一言で片づけられるレベルではないが、それ以上は言葉が見つからない。
ただ、例えるなら……そう、ヲタクの戦場コ○ケの人気サークル様の前のような……。とにかく戦場なのである。
大きなロボットから小さなロボットまで押しかけ、ぎゅうぎゅうに詰まっている。よく見ると道具を使って周りのロボットに妨害をしている者や、殴る蹴るなど暴行を働いている者までいる。
「こんな光景見たことあるな……あ、This is Japanese lunch time rush!」
「だから言ったでしょ?おすすめしないって」
はははと乾いた笑いを漏らすドラえもん。とはいえ、これからは弁当を持参するにしても今日は飯がない。この戦場で生き残り、かつ食料を調達せねばならないのである。
「千里!いきまーす!!!」
千里は走り、突っ込んで行った。そして……跳ね返された。強く地面に叩き付けられたが、やはり身体には擦り傷すらつかなかった。おかしくなった身体には心底感謝したい。
「くっ……これが新型モ○ルスーツの力か……!」
大きな熊のような身体のロボット、ゴリラのようなロボット、牛のようなロボットまでいる中、千里はあまりに小さく、無力だった。
「ねぇ、やめておいたら?僕の少し分けてあげるからさ」
ドラえもんは優しく提案してくれた。が、どこかあの戦場に似たこの状況で千里は諦められなかった。もう一度行こう、そう思って立ち上がった時。
「そこのセニョリータ、まさかあの中に一人で突っ込んで行く気かい?」
横からスッと薔薇の花が差し出された。瞬時に誰なのかを理解する。
「貴方は……」
知っているが、キッドやドラえもんの時と同じことは起きないように知らないフリをする。
「俺はエル・マタドーラ。そこのドラえもんの親友で、貴女とは同じクラスになりましたね。よろしければおぜうさんの手助けを致しましょうか?」
「あ、千里。マタドーラはいつもこんな感じなんだ。気にしないで無視していいよ」
ばっさりと親友を切るドラえもんカッコいいなとか思いながらも、この申し出はありがたいと受け入れることにした。何をしてくれるのかは分からないが。
「マタドーラ何してんだ。買ったなら……ってあれ?千里?」
アメリカンドッグやホットドックなどを大量に腕に抱えたキッドが、あの人混みの中からサラリと現れる。
「いいところに来たなキッド。お前もセニョリータを手伝え」
「はぁ!?なんで俺が!」
「お願い、キッド。今は仲間が必要なの」
千里もマタドーラに便乗してお願いする。仲間は多いにこしたことはない。キッドは耳をポリポリ掻きながら「分かったよ……」と了承してくれた。
「よし、俺とキッドで道を作る。セニョリータはそこを突き抜けて買ってくれ」
とても単純かつシンプルな作戦。いや、もはや作戦とか呼べる代物でもないが。
「せーのっ行くぞキッド!」
マタドーラの掛け声に合わせて千里は走り出した。キッドはお得意の空気砲を構える。
「気絶したくねぇ奴は道を開けな!どっか〜ん!!」
キッドの放った空気砲で後方の人混みが吹っ飛ぶ。
「さぁ〜ドラえもんズ1の怪力とやりあう馬鹿はいるかぁ!?」
マタドーラは千里より先に開いた道に滑り込み、先方にいる人混みを、その怪力で無理矢理こじ開けていく。勝利は近い。
「おばちゃん!何でもいいから頂戴!」
仲間の作ってくれた時間を無駄にしまいと購買ロボットのおばちゃんに大雑把な注文をする。おばちゃんはどら焼きを取り出して千里に渡した。
「はいよ」
お金を払ってどうにか人混みから抜け出す。戦闘は終わった。
「やった〜!!!」
喜ぶ千里にやれやれといった様子のキッドと、良かったねと言ってくれるドラえもん。そして、
「無事に買えたようで良かった。満足のいく買い物はできましたかい?」
マタドーラはニコリと微笑む。実際はただのプレイボーイだと分かってはいるが、この時のマタドーラはとてもカッコよく見えて、
「うん!ありがとうマタドーラ!大好き!」
心からそう言った。勿論友達として、という意味だけれど。マタドーラは一瞬驚いたような顔をして、そして顔を逸らしてしまった。
赤いメッキで囲まれた白い顔を朱に染めて。そのことを知る者はまだ誰もいない。