アンドロイドになった日
□二匹目
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ロボット養成学校学生寮の一室。図々しくも、校長の厚意でそこを使わせてもらえるようになった千里。
謎の世界に飛ばされた翌日。彼女は学校がないことをこれ幸いと惰眠を貪っていた。他の人は学校かと思うと尚のこと気分がいい。思う存分寝ると決めた時、タイミングよく来訪者が現れた。
彼女の部屋を訪ねる人間など、一人しかいない。寺尾台校長である。
「やあ千里。ま〜だ寝とったのか。ほれ、はよ起きなさい」
ムスっとしながらも身体を起こし、にらめつけるように校長を見た。髪の毛は相変わらず生えてきていないようだ(当たり前だが)。
「君は見たところ学生じゃろう?学校にも行けなくなってこれでは堕落する一方じゃな……ふむ、特殊なケースじゃし、あのクラスに入るとするか」
寝ぼけた頭で校長の言葉を反芻する。「クラス」?「入る」?
「えっいや、いいです、ほんと。堕落させて下さい」
丁重に断るが、校長は首を縦に振ってくれない。やはり一応教育者なのだろう。
「だめじゃ。身だしなみ整えロボットを連れてきた。これで整ったら即送ることにしよう」
校長は千里の切実な願いを一蹴し、連れてきたロボットに彼女の世話をさせ、自分は寮室から出た。
来た時に着ていた制服姿になった千里はロボットに連れられて、また校長室に来た。校長は「来たか」と一言言うと、どこからかボタンのようなものを取り出し、それを押した。その瞬間、彼女の足元には穴が開き、管のようなものを滑らされる。
「なんなんだよこれ!滑り台かよ楽しいな!」
怒っているのか楽しんでいるのか分からない声を上げて、彼女はスルスル滑っていく。勿論終わりはある。滑った先に光が見え、光へと出ると、彼女は勢いよく尻餅をついた。
地味に痛い。
「えー突然ですが、今日は転入生を紹介します。はい、自己紹介して」
唐突。本当にいきなり始まった。目の前にいるロボットの先生はどこかで見たような容姿をし、どこかで聞いたような声をしている。千里は立ち上がって教室内を見回す。そして、ようやくこの世界がどこなのかを知る。
「ドラえもん!!??」
大声で放った第一声。それは自己紹介などではなく、見知ったものを呼んだもの。
「えっ?僕?」
まだ黄色い身体で耳のついた状態のたぬ……いや、猫。声も少し高い。
「ドラえもん、知り合いか?」
隣の、同じような黄色い身体のアメリカンな猫。彼は……。
「キッド……?」
見知らぬ転入生である千里に名前を呼ばれ、キッドは小さく驚いた。
「どっかで会ったっけ?」
首を傾げるドラえもんとキッド。千里は確信した。ここはドラえもんの世界。そしてドラえもんがのび太と出会う前だと。
「こんなことってあるんだ……」
放心する千里。置いてけぼりにされた先生はゴホンと咳払いをして、自己紹介をする気がないならもう席に着きなさいと促した。
千里は窓際の一番後ろに座る。ドラえもんとキッドからは不審な視線を向けられたが、事情は後で説明しようと決め、彼女はいつもしているように机に臥せって睡眠をとった。