私と貴方とあの子と彼
□七乱
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「ここがププビレッジ唯一の飲食店…まあ、味の保証は残念ながらできませんが。」
ダークに観光ガイドのようなことを頼まれ、私は村を一通り案内していた。鏡の中にはないものばかりだと、子供のように喜ぶダークに微笑ましくなる。
「そうか…平和なんだな。暖かい。」
彼の世界を、私は知らない。そんなに酷い所なんだろうか?
「鏡の中というのはどういう所なんですか?」
私の問いに、彼は少し思案した後口を開いた。
「そう…だな…ここよりも…冷たい…か?」
ふっと落ちた影に、聞いてはいけないことだったかと焦る。だが、そんな私にダークは笑った。
「大したことじゃねえよ。今は平和だし、何もねえ。」
そこで途切れる会話。お互いに無言になり、視線を彷徨わせる。私は、遠くに青い後ろ姿を見た。
「きょ……。」
私は彼の名前を呼ぼうとした。でも、それは最後まで続かなかった。少し先の丘の上、木立に腰を下ろしている彼の隣には…あの子。
「どうした?」
何か言いかけてやめた私の顔を覗き込んでくるダーク。先程まで私が見ていた方向を見て、彼はどこか納得したような、それでいて不思議そうな顔をした。
「声……かけねえのか?」
「いえ、邪魔をしたら悪い……ので。」
私はなんとかそれだけ振り絞った。今自分がどんな顔をしているのか、凄く酷い顔をしている気がする。
「聞きたかったんだけど、ダガーはメタナイトと付き合ってんのか?」
なんともアッサリと核心を問われる。答えなんて一つしかない。
「いいえ……私はただの部下です。」
そう言うしかない、だって事実なのだから。
「ふーん……じゃあ片想いか。」
「放っておいて下さい!貴方には関係ありません。」
少し語調を荒げてしまい、動揺を晒してしまう。同じような容姿をした男に、片想いという事実を突きつけられればイラつきもすると、心の中で言い訳をして。
私は視線を落とした。今頃あの二人は仲良くこの平和な時間を享受しているんだろうか。自分は一体何をしているんだろうか。
様々なイラつきのせいで、自然と目に涙が溜まった。
「おい、悪かった。泣くな……よ。」
そんな私に、ダークはオロオロとした。いい気味だとか思っても罰は当たらないと思いたい。
「は〜…………。」
しばらく後、ダークは大きな溜息を一つ吐いた。いきなり泣いたりして、呆れられただろうか。
ダークはいきなり私の腕を掴むと、何故かカワサキの店に入った。
「おい、何か……こいつの好きそうなやつ作れ。」
ダークは入った瞬間カワサキに指示した。カワサキはいつも通りののんびりとした口調で「はいは〜い。少し待っててね〜。」なんて言っている。
ダークに腕を掴まれた私は強引に彼の隣に座らされた。
「……いきなり何なんです。」
少し赤くなってしまっているだろう目をこすりながら、私は隣のダークを睨んだ。ダークは何も言わない。
「は〜い、お待たせ〜。」
カワサキが運んできたのはトンカツ定食。それは私とダークの前に置かれ、できたてだと分かる湯気を立てている。
「食え。俺も食う。」
ダークはそれだけ言って箸を持った。仮面取ることはせず、食べにくそうに仮面を持ち上げて口に運んだ。一口食べて咀嚼していたが、途中でダークはむせた。
「げほっなん、こ……まず!!!」
恐らく、「なんだこれ、まず!」と言いたかったんだろう。私はダークに水を手渡しながら背中をさすった。
「だから味の保証はしないと言ったでしょう……。」
水を飲んだら少し落ち着いたらしく、ダークは大きく深呼吸を繰り返した。
「……どうしてこの腕で料理人やってんだ。てかよく潰れないな。」
「そりゃあこの村で彼以外お店をやっていないからでしょう。好きこそものの上手なれが覆された例ですね。」
ダークは呆れたような感心したような顔をした。そして、席を立ち、カワサキのいる厨房へと入っていった。私もついて行こうかと思ったが、待っていろというように手で制されたため席で座って待っていた。
十数分後、再び料理が運ばれてきた。同じトンカツ定食。だが、持ってきたのはダークだった。