賢者の石

□二章
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フーリンの特徴として、夜を纏ったような濃紺の髪と月をそのまま持ってきたような黄色の瞳が上がる。目の前の生徒はその特徴と完全に一致していた。


だが、いかんせん年齢が合わない。見た目は酷似している…昔の、出会いたての友人に。


「スネイプ先生?どうかされましたか?」


自分に何か不審な点でもあっただろうかと思って固まっているセブルスにフーリンが声をかければなんでもないと突き放されて、今夜の調合許可をもらった。



さて、ハグリッドとのお茶会もそこそこにフーリン達は夕食を堪能していた。ハグリッドは嘘をつくのが大の苦手。隠し事も苦手という、絵に描いたような正直者であり、フーリンはそれを知っていた。だが、彼の隠し事(賢者の石関連だろう)に対するフォローにも限界があった。無造作に置かれたグリンゴッツ侵入の切り抜きを見て、勘の良いハリーはこの学校に何か重要なものが隠されていると気づいてしまっただろう。


それが賢者の石だと知られる日は案外近いかもしれない。しかし、彼を危険から守るという目的を持って入学したフーリンとしてはあまり良い状況ではなく…なるべくなら自らを危険に晒すような行為は慎んで欲しかった。そんな彼女の願いなど知るよしもない好奇心旺盛な少年少女はきっとこれからなんらかのアクションを起こすことだろう。


それならば、危険と関わるという選択肢しか残されていないというならば、せめて自分が傍にいるしかない。先が思いやられるようだった…。




夕食後、セブルスと約束していた再調合の為フーリンは薄暗い地下牢へと足を運んでいた。


考えてみればロングボトムも提出できていないわけだったが…まあ、あれは事故だったと処理されるのだろう。そうなれば自分のものも事故だと思うが、グリフィンドールに特に厳しいセブルスは免除なんてしてくれないとも思う。きっと成績を限界まで落とす。あまりにも長い付き合いなので彼の考えそうなことは理解できた。


フーリンは一応現在生徒なので、特に魔法薬学などの危険な科目は教師の目の届く場所でしかできない。それが二年や三年なら自寮でやる者もいるかもしれないが、一年生が自寮でやろうものなら上級生が全力で止めに入る…と思う。少なくともフーリンならそうする。


提出するだけなのだから自寮で調合しようとも考えたのだが実行しなかったのはその為だ(材料がないというのも勿論あるが)。


恐らく自室で昼間の調合の採点やら上級生のレポートやらを見ているだろうセブルスに教室を使用することを伝える為、彼の研究室の扉をノックする。


「レリエル・オークスです。昼間の薬の再調合の為、教室を使用したいのですが。」


「入れ。」


短く返事が返ってきた。扉を開けてみれば、教室に負けず劣らず様々なものが詰まった瓶がところ狭しと並べられていた。


彼は思った通り机に向かっていて何やら書き物をしていた。もう作ってしまっても良いのだろうか…。


「スネイプ先生、もう調合を始めてしまって良いのでしょうか。」


恐る恐る問えば、やはりというか、立ち上がってこちらに顔を向けた彼から嫌味が飛んでくる。


「ほう…随分と自信がおありのようですなMs.オークス。それもそう…友人を危機から救い、薬の後片付けまでするような優秀な生徒ですからな。我輩の監督など最早必要ないと。」


口元は歪められてられているが、けして友好的な笑みなどではない。どうやらグリフィンドールの優秀な生徒というのは本当に気に食わないようだ。


「あれは…たまたまです。私はスネイプ先生にそこまでおっしゃって頂けるような優秀な生徒ではありません。」


彼の嫌味など長年の経験で慣れている。いや、まあここまで酷く言われたことはなかったが…。こういう時は当たり障りのない言葉で乗り切るに限る。いちいち突っかかれるほど自分は若くはないと自覚しているし。


「あれはたまたまできるようなレベルの呪文ではない…それにあの調合。教科書の行程通りではなかったのではないかね?」


つかつかとフーリンに向けて歩いてくるセブルスはまるでフーリンを追い詰めていくかのようだった。まさか教科書の無駄な行程を省いていたところまで見られていたとは思いもしなかったフーリンは驚きを隠せない。


「貴様は…何者なんだ?」


疑われている。分かると思うが非常にまずい。昼間の自分の考えなしの行動を悔やんだ。かといって、あのままロングボトムに大怪我を負わすというのも本意ではないのだが。


ああ、でも誰かを助けて自分が墓穴を掘っては本末転倒というか、ただの愚かなアホである。視線を左右上下いたるところに彷徨わせているあたり、今の彼女に余裕はない。これでは自分は不審人物ですよと公言しているようなものだ。


だがしかし、フーリンの状況打開策を必死に考える為の様々な思考は、突如として停止される。させられる、強制的に。それは魔法使いと吸血鬼の混血である彼女の宿命ともいえるだろう“吸血衝動”によるものだった。


「ぅ……。」


突然俯いてしゃがみ込むフーリンに、セブルスは何かしだすのではと己の杖に手を当てた。
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