賢者の石
□二章
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いや、正直一人の方が気楽ではあるのだが、こちらを見てくるセブルスの視線が痛い。少しでもミスをすればネチネチとした嫌味を連発されるだろう。
昔から少々口も性格も悪かったが、しばらく会わないうちに悪化したらしい。きっと色々ストレスが溜まっているのだろう。
ああ……嘆かわしいと思いつつも手は休めることなく作業を続けた。結果、当然といえば当然フーリンは完璧な薬を最短で作り上げた。今までの経験で、どうすれば教科書の作り方を省略できるか知っていたからである。
と、人よりだいぶ早めに終わった彼女は隣のハリーとロンの様子を伺った。見たところ順調のようである。丁度セブルスはスリザリンの方を見ていたので、彼女が薬を作り終えて他人の調合を見ているなんてことは知らない。
「レリエルはどのくらい終わったの?鍋見てなくて平気?」
ロンは心配そうに言ったが、フーリンは心配無用だと、さきほど完成して瓶につめた薬を見せた。
二人は驚きの表情をしていたが、正直できて当たり前のことなので嬉しくはない。
大丈夫そうだから、と顔を上げた時。おおよそ彼女からは信じられない光景が見えた。ハリーとロンの隣、ネビル・ロングボトムが火から降ろさないで山嵐の針を入れようとしていたのである。
「ロングボトム!ストップ!」
「え?」
駄目だ、間に合わない。ロングボトムの手から山嵐の針が滑り落ちる。フーリンは素早く杖を抜き、呪文を唱えた。
「プロテゴ(護れ)!!!」
鍋が割れたのが先か、彼女の呪文が先か。辺り一面に広がる強烈な緑色の煙が視界の邪魔をする。流れてくる失敗した薬は毒となり、靴や衣服を溶かすだろうから、と彼女は再び杖を振った。
「エバネスコ(消えよ)。」
薬が消え去ったのを確認した後、驚きのあまり腰を抜かしているロングボトムの様子を見るために傍に寄った。
「大丈夫?薬被ってない?」
「えっと…少しだけ…手に…っ。」
見れば、ロングボトムの手には真っ赤なおできができていた。少し反応が遅かったらしい。フーリンは彼の痛々しい手を取って、さきほど自分が調合した薬を塗った。腫れが引いていく。
「あ、ありがとう…Ms.オークス。」
「レリエルでいいよ。ごめんね、少し反応が遅かったみたい。一応薬は塗ったけど、専門じゃないから医務室に行って。」
一部始終を見ていた生徒とセブルスは驚きに目を見開いていた。生徒の驚きは単純な凄い、というもの。セブルスの驚きは、彼女の使ったプロテゴの呪文。習得の難しい呪文を入学したての一年坊が使ったのだから無理はない。
「…他の者はできた薬を瓶に入れてラベルを貼って提出するように。今日の授業はここまでだ。」
驚きから持ち直したセブルスは静かに授業の終わりを告げた。が、フーリンは先ほどの自分の行動を早速後悔していた。まず、高度な呪文をわざわざセブルスの目の前で使ってしまったこと。そして、ロングボトムに薬を使ってしまって提出できない状況になってしまったこと。
ああ…自分は潜入とか向かないのかもしれないと情けなくなってくる。
フーリンはハリーとロンを先に行かせて自分は教室に残った。提出できない旨を伝える為である。
「スネイプ先生…その、薬をロングボトムに使ってしまって提出できないのですが…。」
そう言えば、彼は馬鹿にしたような笑みで見下ろしてきた。
「どれだけ呪文が使えても、完璧な調合ができても、我輩の出した授業課題が提出できないようではいけませんなあMs.オークス?」
ねちっこく、相手をいたぶるような話し方。これでは嫌われて当然だと心の中で溜息をつく。
「では、今夜今日の分の薬を再調合をします。教室と材料の使用許可を頂けますか?」
落ち着いて、目を見て怯まず話した。そうすれば彼は自分の予想と反した反応をする彼女に明らかに不機嫌になる。
ふ…と、セブルスは自分を見上げる彼女の目に見覚えがある気がした。長年付き合ってきた、リリーの次に信頼していると言っても過言ではない友人フーリン・アシュフォード。
だが、すぐにそんなことはありえないと思考を遮断した。友人は自分と同い年であり、リリーが死んだあの日から行方不明になっている。
友人はかなりの実力者であったし、どこかで生きているかもしれないと捜していたが、我が君から彼女は死喰い人に盾ついたと聞いてからはもしかしたら我が君に殺されたのかも…と最悪を想定していた。