死神短編物語

□ホワイトデー
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「お休みなさいませ坊ちゃん」

セバスチャンはシエルの部屋を後にすると明日の朝食を準備しにキッチンへと向かった




「―おや?」

セバスチャンが冷蔵庫を開けると今日届くはずの食材の中でベーコンが無いことに気付くと発注書を確認した

「3月13日… やはり今日来ているはずですが… まぁ代用する物はありますし… 少々予定を変えますか…」

そう言ってセバスチャンは下拵えをし始めた

約3分後
セバスチャンは一目が無いので悪魔の力を使って猛スピードで全ての準備を終わらせた

「ふぅ こんなものでしょうか… ん?」

セバスチャンは中庭に何かの気配を感じ、肩をすくめた

「やれやれ… 今夜は忙しそうですね」

そう呟くとセバスチャンはキッチンに置いてあったシルバーを手に中庭へと向かった





「ぐはっ!!」

ドサッ ドサッ

パンパンッ

セバスチャンは手で手を払うと目の前の男達に悪魔笑いを浮かべて言う

「まだ… やりますか?」

「ひっ… ひぃ!!」

男達は慌てて門へ走った

そしてセバスチャンは周りを見渡す

「今日も片付けが大変ですね…」

溜め息を漏らすとセバスチャンは周りに散らばっている男達の後ろ襟を無造作に掴み、引きずって行った





「これで最後のようですね」

セバスチャンは一通り中庭を“掃除”し終えると自室へと向かった 別に寝るわけでは無い ただ何となく そこに足が向いたのだ

―ガチャ

「―! おや…」

セバスチャンが扉を開けると白い一匹の猫がベッドの上に丸まって寝ていた

「(一体どこから入ってきたのでしょう?)」

セバスチャンが不思議に思い、猫へと一歩歩を進めると猫の耳がピクッとなって目を覚ました

「あぁ… その瞳… なんと美しいのでしょう…」

セバスチャンはうっとりしながら近づくと猫に手を伸ばした

その時、猫が不敵に笑った― 気がすると猫が口を開いた

「ヒッヒ… 相変わらずの猫好きだねぇ?」

「!!」

セバスチャンは目を開いて驚いた

「まさか… この世に喋る猫がいるとは… と言うかその声… その喋り方…」

「やぁ 執事君 お邪魔してるよ〜?」

「葬儀屋さんですよね? どうされたんですか その姿…」

「ヒッヒ… 今日は何の日か知っているか〜い?」

「…? 今日は3月13日… いえ正確には14日になりましたね」

セバスチャンは時計を取り出し、言い直した

「で、3月14日は何の日だい?」

「…ホワイトデーですか?」

「ヒッヒ 当ったり〜 本当はクッキーでも焼こうかと思ったんだけどね〜 君(悪魔)には味がわからないだろうから止めたのさ」

「もしかしてそれで…」

「ヒッヒ あぁ 君が一番喜ぶ姿でお礼しに来たって訳さぁ〜」

「フフッ… それはありがとうございます ですがどのようにしてその姿に?」

「ヒッヒ… 小生は姿を変えた訳じゃなくて 猫と魂を入れ替えたのさ〜」

「…! そのようなことが…」

「死神は魂のスペシャリスト… 小生にはこの位造作も無いことさ」

「なるほど… では早速…」

セバスチャンはもう我慢出来ないといった感じで猫を抱き上げた

「―!?」

あまりにいきなりだったのでアンダーテイカーは驚き、猫がピクッとする

それに気づいたセバスチャンは悪魔笑いを浮かべた

「おや どうされたのですか? お礼に来てくれたのでしょう?」

「ま、まぁ それはそうなんだけど…」

目を逸らして照れたように言う

「では堪能させて頂きますね」

スリスリスリスリ…

セバスチャンは猫を頬自分の頬でスリスリする

あまりに近すぎて硬直している

どうやら覚悟は決まって無かったようだ

「に、にゃー!」

「おや、貴方の声で鳴いて下さってもいいのですよ?」

「それはちょっと…」

「ところで… 葬儀屋さん?」

セバスチャンは少し低い声を出す

「な、なんだい?」

「微かにベーコンの香りがしたのですが… 気のせいですか?」

「…!」

ギクッとなる猫

セバスチャンが注意深く辺りを見回すとゴミ箱にベーコンの袋が入っていた

セバスチャンはそれを取り出す

「…葬儀屋さん?」

「……いや入れ替わった猫が空腹だったみたいでね… 君の仕事が終わるまでにお腹が空いて死にそうだったんだよ…」

白状するとセバスチャンの手の中から逃れようとしたがセバスチャンが離すはずもなく…

「あのベーコンは坊ちゃんの朝食に使うものだったのですが」

「そ、それはすまないことをしたね〜」

猫は汗を流しながら詫びる

「全く… お仕置きが必要のようですね…」

「へっ!?」

セバスチャンはそう言いながら悪魔笑いを浮かべると猫をベッドに置いた

そしてくすぐり始める

「にゃ… にゃははははは!!」

猫と人間の中間のような言葉で猫はジタバタ暴れる

「ほら… 些細なプライドなんて捨ててください」

「だ、誰が… ニッ ニャー!!」

セバスチャンはくすぐり攻撃を続ける

五分後…

「ハァハァハァ…」

猫はうつ伏せに手足を伸ばし、ぐったりとしていた

「貴方もなかなか強情ですね これはどうですか?」

ゴロゴロ…

「―!」

セバスチャンは猫の顎を触り始める

「ニ、ニャ〜」

猫は一瞬我を忘れ、直ぐにハッとなる

「気持ちよさそうですね」

ゴロゴロ…

「そ、そんなことニャイ― …!」

「ブッ!!」

人間語と猫語が混じると猫はしまった といった顔をし、セバスチャンは吹き出した

そんなセバスチャンの反応を見て猫は顔を真っ赤にした

「〜〜〜〜/////っ!!」

「いえ… すみません つい…」

「つい じゃないよ!! 全く…」

照れ隠しに必要以上の声を上げる

「貴方がそんな可愛らしいことを言うとは… 私は今日と言う日を忘れないでしょう」

「忘れておくれ!! 今すぐ!!」

「努力します」

「全く… あ」

「…? どうされましたか?」

「そろそろ時間だねぇ」

「…そうですか 名残惜しいですが仕方ないですね」

「ヒッヒ… じゃあね執事君」

「えぇ 来年も楽しむにしてますよ」

「―! もうやらないよっ」

そう言い残すと猫のペリドットの瞳が金色に変わった

「ニャー」

猫は辺りを見回して鳴く

「フフッ… また来て下さいね 葬儀屋さん…」


→あとがき
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