現役夢物語

□二重神格
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此処は新神の技術試験用の大部屋
壁には横に馬鹿デカい傷が走っており、今もパラパラと木くずが落ちていた

その部屋の真ん中に対峙している二人― 現役テイカーとチナツである
現役テイカーは頬に血を滲ませ、チナツは現役テイカーを見て笑みを浮かべている

そこから離れたところにいるユーディアが驚きの表情でチナツを見ている
そして徐に口を開く

「チ、チナツが二重神格…!?」

「あぁ… さっきまでのチナツとはまるで雰囲気が違う」

チナツが何故“戦闘狂”などと言われる程の暴走を起こすのか、その理由を突き止めようと現役テイカーはチナツとデスサイズを交えることにした
そして現役テイカーに追い詰められた時、チナツの箍が外れ現れたもう一つの神格、それが今現役テイカーとユーディアの目に映っているチナツだった
今そのチナツは片手でデスサイズをブンブン振り回している

「確かにそうだけど… 一体どうしたら…」

「…厄介だな」

現役テイカーがユーディアと話しているときにチナツが口を開いた

「先輩〜 いつまでお喋りしてるんですか?
私と戦ってる最中ですよ?」

「「―!」」

現役テイカーとユーディアはその声でチナツの方に視線を移した
今のチナツは何をしてくるか分からないからだ
そんな二人にチナツは楽しそうに言う

「どうしたんですか〜? ふふっ 私は不意打ちなんてしませんよ、面白くないじゃないですか〜」

「…お前は何だ?」

“誰だ”と聞こうと思ったが現役テイカーは“何だ”と聞いた

「何言ってるんですか、私は私、チナツですよ?」

「チナツ… 貴方…」

ユーディアが心配そうに呟くとチナツはユーディアに目をやるが直ぐに現役テイカーに戻す

「お前はチナツじゃないだろう」

「酷いです〜 何処からどうみても私ですよ〜」

「…ユーディア、何とか言っ―」

「あー、あの子元々あんな感じだったのよ…」

「…そうなのか」

微妙な顔をする現役テイカー

「あ、いや 確かにあんな感じだけど… 何か…違う、雰囲気が…」

上手く言葉に出来ないように言うユーディア

「…………」

現役テイカーが何やら考え込むとチナツが口を開く

「…先輩」

「何だ」

「いつまでも無視しないで下さい 私、戦いたくてウズウズしてるんですけど」

「…そう言えばさっき『やっと出てこられた』と言っていたが一カ月前にパートナーを手にかけようとしたのはお前か?」

「ん? あぁ、あの時のことですか? 害獣だけじゃ物足りなくって気が付いたら…」

「パートナーを手にかけようとしていたと?」

「あ、そうだったんですか? その時の記憶が途切れてるんですよね」

「…………」

ケロッと言うチナツに現役テイカーはここまで本人とかけ離れた神格に眉を寄せる

「チナツ… どうして…」

「私、戦闘が好きなんです」

口を挟んできたユーディアに面倒くさそうに答える

「ユーディア、あのチナツは戦と― ―!」

現役テイカーが再びユーディアに顔を向けるとチナツが突っ込んで来た

ギンッ

「だから無視しないで下さい… 先輩の相手は私でしょ?」

「…………」

デスサイズを受け止め、現役テイカーはチナツを見た

「暴走すると聞いていたが、随分と落ち着いているな」

「ふふっ 先輩が私の意識を完全に落としてくれたお陰ですよ」

そう言うとチナツはデスサイズを振り上げ現役テイカーを押し始める

ガキン ガキン ガキンッ!

現役テイカーはチナツの攻撃を受け流しながら後退する

「…………」

「余裕です…ねっ!」

ガキン!!

デスサイズが交差する

「でなければ小生がお前の指導をするわけないだろ?」

「それもそうですね」

チナツは楽しそうに言う

「とりあえず、お前引っ込め 元のチナツに戻れ」

「ひっどいですー 私と戦ってくれるって言ったのに〜」

戻る気の無いもう一人のチナツに現役テイカーはどうしようかとユーディアに意見を求める

「ユーディア! 何とかならないか?」

「…………」

チナツはまた面白くなさそうな顔をする

「えっ!?」

一方ユーディアはいきなり振られて驚く

「このまま戦っていても何の解決にもならない…何かないか!?」

「んー…」

ユーディアは考える素振りを見せるとチナツが不意に現役テイカーに加えていた力を抜いた

「――!?」

現役テイカーは今まで加えられていた力が急に無くなったので前のめりになった
身体がぐらついて立て直そうと思った時、チナツがデスサイズを構えながら脇を走り過ぎた
そのチナツが向かった先は――

「ユーディア!!」

現役テイカーは叫んだ
ユーディアに危険が迫っていることを知らせる為に――

「――!!」

チナツは無防備なユーディアに向かってデスサイズを振り上げた
その瞳は冷たく―

「戦いの邪魔しないで下さい」

―ザシュッ

ユーディアにチナツがデスサイズを振り下ろした

「ユーディア!!!」

現役テイカーは直ぐにユーディアの元へ走りチナツのデスサイズを弾き飛ばした

ガキンッ ――ザクッ

飛ばされたデスサイズは空中で回転しながら地面に刺さった
チナツの顔にユーディアの返り血が付いた

「―――!!!」

チナツの表情が一変し驚愕の表情を浮かべた

「ユ…ユーディア…先輩…?」

チナツの瞳が揺れた

血を流しているユーディアにチナツの身体が震え始めるとチナツの身体が引き寄せられた
ユーディアがチナツを抱き締めていた

「落ち着いて…チナツ…」

「チ〜ナ〜ツ〜、ユーディア先輩…? 血…血が…!!」

チナツは目の前に赤く染まっているユーディアを見て動揺する
するとチナツに思いがけない言葉が聞こえて来た

「チナツ…大丈夫?」

「え…?」

どうみても大丈夫じゃないのはユーディアの方なのに自分の心配をされてチナツは小さく震えた声で訊ねる

「私…ですか? 私が…やったんですか?」

チナツはユーディアから流血しているところを見ようと離れようとしたが、ユーディアが力を緩めなかった

「…………」

「ユーディア先輩…?」

「………っ!」

ユーディアはチナツの動悸が落ち着くと痛みに顔を歪め後ろへ倒れた

―バタンッ
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