side REIKO

□”名前”の無い物語
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「……へっ? ってきゃぁ!?」

立ち上がったばかりのわたしの体は急に斜め下に引っ張られ、そして倒れてしまった。
その後、衝撃に備えて目をつぶったわたしを待っていたのはふんわりとした柔らかい感触と僅かに鼻をくすぐる柑橘系の香り、そして僅かなぬくもりだった。
目を恐る恐る開いた先にあったのは悪戯っぽく笑う『あなた』の顔……。こっちは真面目にあなたの心配してるのにわたしばっかり馬鹿みたいじゃないの……。

「……――――! そんなことしてぇ、いい加減にしないと怪我人だからって容赦しないよ!?」
「じゃあ、どうする?」
「そうね、この際だから医師免も持ってるわたしがこの場で直々に調合した特製の睡眠薬で一週間くらい眠ってて貰おうかしら」

こうなったら反撃してやるんだから……。

「睡眠薬って……そう簡単には飲んであげないよ?」
「問題ないわ。ちゃ〜んと気を失わせて注射してあげるから」

“注射”という言葉を聴くと見る見るあなたの顔は青褪めていく。
そうなのだ。何を隠そう『あなた』は18歳にもなっていまだに注射嫌いで5歳6歳の子供と同じような反応を見せてくれるのだ。
とても軍人とは思えない。とはいえわたしは血すら見たくも無いくせに軍艦に乗ってる軍医だったりするんだけどね……。

「注射……するの……?」

僅かに瞳を潤ませている姿がまた愛らしい。

「そりゃ、あなたが大人しく待っててくれたら注射なんかしないわよ?」

此処で極上の笑みを浮かべてみたり。何だかんだ言ってこの笑顔が一番効果的なのだ。
明らかに不満がある様子ではあったがわたしは解放され、やっと先生が呼びにいけるようだ。

「じゃ、行って来るから大人しくしててね」

やっとのことで医務室を抜け出しわたしはこの艦の専属医を探す出来る。
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