BunBoom
□1》one's begining
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雄太が箕瀬八校に来た一番の理由は、このバスケ部に入ることにあった。
有名な強豪という訳でも、有名人が所属しているという訳でもない、ごくごく普通のバスケ部。
しかし、ここには、雄太の憧れの先輩がいるはずだった。
雄太が中学2年だった夏、一つ年上でチームのキャプテンだったその先輩は、弱小だと言われていたチームを県大会8強まで勝ち上がらせた。
勿論それは一人の力ではないが、雄太にしてみれば、中学時代は先輩がいてこそのバスケットだった。
教師の話も聞き流し、雄太は 談笑する数人のバスケ部員の中にその先輩を探す。
「……んん?」
先輩の姿は、しかし、みつからない。
目を凝らして窓に顔を近付けたそのとき、椅子をひくがたがたという音が聞こえた。ハッと教室に目を戻し、周りに合わせて慌てて立ち上がる。
SHRが終わったらしい。
「オレ安田先輩に挨拶してくるから。なんかあったらメールして」
クラスメートへの挨拶もそこそこに、雄太は配られたばかりのプリントを母親に押し付けた。
「…いいけど懇談終わったら先帰るからね」
「わかった」
母親が呆れ顔でプリントを受け取るのと同時に、足早に教室を後にする。
教室の横を通り過ぎるたびに、中からはがやがやと談笑する声が聞こえてくる。
雄太はそれに見向きもせず、真っ直ぐ生徒玄関に向かった。
考え及ぶのはただ、バスケ部の事のみだ。
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