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□・射止める眼
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帽子のひさしにやった手を、くい、と動かした。
うだるような真夏の日差しの下、その姿は白く白く、どこまでも眩しく輝く。
こちらを見据える瞳は鋭く、一寸の付け入る隙もないほどに、強い。
片足が上がる。
右腕を振りかぶる。
ボールが、放たれる。
スタンドからの歓声も選手の声も、一瞬意識の内から弾かれた。
耳の奥でキン、と静寂だけが音を立てる。
瞬間、小気味良い音を立てて、ミットの中にボールが収まる。
ゆっくりと、聴覚が戻ってきた。
割れるような歓声。
一足遅れて、白球を受け止めた右手から全身に向かって、ぞくりとしたものが走る。
肺に溜まった息を吐き出して、マウンドを見つめ返した。
僅かに笑った顔が見えた。
「ナイスボール!」
マスクの下で、思わず同じように笑みを作る。
叫びながらピッチャーにボールを返し、俺はミットを構え直した。
マウンド上で、グラブが胸の位置まですぅとあげられる。
射抜くような視線を受けて、ミットを構える手にぐっと力が入る。
さあ、来い。
その一球で、
その瞳で、
夏が 始まる。
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