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□・その笑顔も
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ぽつんと一つ、静かにそこに存在する石の元に、白い小さな花を添えた。

君はとにかく自然が大好きで、星にしろ花にしろ、僕に沢山の名前を教えたがった。
それをおとなしく黙って聞いていたのは君の声が聞いていたかったからで、僕は正直、それらのものに興味はなかった。

だから僕は君が好きだった花も知らない。
この小さな白い花が、一体どういう名前なのかもわからない。

こんなことになるのならもっときちんと君の話を聞いておけばよかったと思うけれど、それはもうどうしたって叶わないし、反実仮想で願うならもっと相応しいものがあるはずだ。
それは、そう。
君が、死んでしまわなければよかった。
とか。

風が吹いて、花の首が揺れた。位置をずらしてそれを落ち着かせて、僕はそのまましゃがみ込んだ。
墓石の元、ぱらぱらの土を指に取る。
煙になった君は、あれから空気中の塵となって、僕らの上に積もってきたんだろう。今はもうきっと、この土の成分になって久しいんだ。

どうしてなんだか昔から君は水葬を望んでいたから、てっきりそうなるものだと思っていた。そうしたら僕は海は見れなくなるなあ、って。そう、思っていた。
だけど君のご両親は君を火葬にした。昔からのしきたり通りに、何の迷いもなく火葬にした。

残念だったね。

君は自由に生きすぎたから、親が認めないような男――つまりは僕、なんかと過ごしてしまったから、最後の最後では我が儘を許してもらえなかったんだ。

残念だったね。

火葬に、抗議して欲しかったかい?


墓石に手を伸ばした。触れてさすって、輪郭を確かめる。


実は、水葬には僕も反対だったんだ。
こんな別れになるのでなければ僕は構わなかった。だけど君は僕を後に残してしまったから。残された僕は、君にもう、会えないから。

水葬は、こわいよ。

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