short
□salty melty
1ページ/3ページ
ーYoonA sideー
「…雪だ」
寝室の窓の外。
夜が更けても完全には眠らない街に、粒のごく小さい雪が降っていた。
窓を開いて、手を伸ばせば、手のひらに触れるなり溶けてしまう粉雪だ。
「ユンア、何してるの?」
窓の外に腕を伸ばしたまま振り返れば、濡れた髪にタオルを被って、いつもよりずっと幼い印象の彼女が部屋の入り口に立っている。
雪が降りだしたよ。
粉雪だから、あんまり積もらないかもしれないけど。
「砂糖を振り掛けてるみたいじゃない?」
そう言って、私の隣にやってきた彼女もまた、私と同じように手を伸ばす。
「だめ。湯冷めしちゃう」
「ユナもお風呂上がりでしょ」
「私はもう髪も乾かしたもん。オンニがお風呂の間に」
おいで。
彼女が伸ばしかけたその腕を引いて、ベッドに座らせる。
後ろに座って、綺麗な髪にドライヤーをかけてあげる。
傷んでしまわないように丁寧にやるのはいつものことだけど、今日は更にいとおしむように、時間をかけた。
「ユナ」
「なぁに?」
「もし、明日雪が積もったら」
彼女はそこではっとして言い淀む。
続きを急かしたりしない。
彼女が言おうとしたことはわかってる。
「…綺麗でしょうね」
とってつけたような続きの言葉。
返事をせずに抱き締めた。
窓の外の雪は強くなる。
粉雪のままだけど、激しさだけが増していく。
砂糖を振り掛けてるみたいじゃない?
彼女の言葉がこだまする。
なんのための砂糖なんだろう。
「ユナ…」
窓の外の雪のせいで、灯りを消した部屋の中はいつもより明るい。
彼女の顔が、体が、ぼんやりした灯りの中に浮かび上がって、泣きたくなるほど綺麗だった。
「ジェシカ」
覚えておこう。
1つ残らず。
この目で見えることも。
この耳で聞こえることも。
この手で触れたことも、全部。
窓の外に降る砂糖がそうさせたのだろうか。
ひたすらに甘くて、甘すぎてあちこちが痛む。
そんな時間は、手のひらの雪が溶けるより早く、無情に過ぎていくのだけれど。
「愛してる」
少しでも多く、触れていたい。
この時間が終わってしまう前に、一生分の気持ちを伝えたかった。
窓の外の雪は激しさを増す。
最初の予想に反して、真っ白に染まった街が眩しくて目が痛かった。