私は何ものにもなれない

□第九話 目を閉ざす
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所属兵科を決めた夜、アニは私はもちろん誰一人と口を聞くことはなかった。夜が明け、訓練兵団で食べる最後の朝食は隣に座りはしたものの、いつものようにアニが私に話しかけてくることはなかった。
私たちは昼間にはそれぞれの兵団の本部に移動することになっている。このままアニと口を利くことなく別れるのだろうか。そう思い、それだけは嫌だと椅子から立ち上がった私を呼んだのはアニだった。食堂の出入口で手招きするアニに駆け寄った私をアニが連れてったのはいつもの場所だった。

「アニ...、その...、あのねーー」

「別にいい。あんたはこうするんじゃないかって、思ってたから」

「ベルトルトが好きなんでしょ?」と言ったアニに私は「守りたいだけ」と答えた。たしかにベルトルトは好きだ。だけど同じようにアニとライナーもすきだった。この気持ちが恋愛感情なのか、私にはわからない。「ベルトルトはあんたが好きだよ。間違いなくね」ともいったアニに私はなにも返せなかった。

「...ねえアニ」

「なに」

「憲兵団で無理しないで」

「それは私の言葉。バカ二人につられて無茶しないように」

アニはわかりにくい笑みをを浮かべ、それからすぐに顔を引き締めた。

「アニ?」

「...これはあとで二人に伝えてほしいんたけど、テヨン、昨日の話は覚えてる?」

「話?」

首をかしげた私にアニは「エレンの話だよ」といい、「あれが罠の可能性もある」と声を落としていった。
昨日、エルヴィン団長はエレンの生家に巨人の秘密があるといった。家はシガンシナ区、すでに巨人領域になっているウォール・マリアにあり、ウォール・マリアを取り戻すのには最短でも20年はかかるという。...エレンの力がなければ、の話だ。
だけど運の悪いことに調査兵団はエレンの力を手にいれてしまった。そしてさらに運の悪いことにエレンは調査兵団に力をかすと宣言したらしい。
彼の力があれば人類がウォール・マリアを奪還するのも無理な話ではなくなってしまう。そうなれば間違いなく調査兵団は私たちの敵になる。そしてそこにいるエレンも敵になる。

「やるなら今しかない」

「だけど、私たちはーー」

その調査兵団の一員になったんだよ、といいかけた私を遮ったのはアニだった。「私は違う。私ならできる」と言ったアニの目には迷いがあるのに、その声には迷いがない。まるで感情を隠すかのような言い方に私は何も言えなかった。
アニの決意を曲げる権利なんて私にはない。ベルトルトにも、ライナーにもない。私たちには見守ることしかできないのだろう。

「...協力するから」

「別にあんたの助けなんかいらない」

私は「なら勝手にする」といい、アニは呆れたようにため息を吐いた。だけど拒絶はしなかった。
その日の昼、私は調査兵団本部に、アニは憲兵団本部に向かった。一人違う場所に向かうアニの背中は私の背中よりもほんの少しだけ大きいはずなのに、いまだけは少しだけ小さく見えた。
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