私は何ものにもなれない

□第七話 強い兵士と弱い戦士
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火葬の二日後、ウォール・シーナの審議所でエレンの生死を決める兵法会議が行われた。乗り込みを提案した私の案は「調査兵団がエレンを見殺しにするわけがない」といったライナーに却下された。兵法会議にはミカサとアルミンが証人として召集され、ライナーの予測通りエレンは調査兵団預かりとなった。

「噂って怖い」

「どうしたの、急に」

目の前に置かれたスープをただ掻き交ぜていた私は顔をあげると食堂に集まった訓練兵を視界に入れた。いつもと変わらない風景、だけど飛び交う話の話題はエレンの裁判一色だ。彼は希望か、それとも破滅の悪魔か。聞こえてくる意見は五分五分のように思える。
隣に座るベルトルトは私の言わんとするかとに気づいたのか「たしかに、そうだね」と言葉を濁した。

「エレンは希望なんかじゃない」

「まだ決まったわけじゃないよ」

「私にはわかる」

「テヨン……、」

私は怖い、と囁いた声はベルトルトに届いたかはわからない。それでも縋るように握りしめた手をベルトルトは握り返してくれる。

「このくらいじゃ何もかわらないよ」

「わかってる」

「テヨン、君は僕が守るから……必ず」

私は何も返さなかった。胸に燻るこの嫌な予感を消す方法なんて私にはわからない。
ベルトルトはいつも私を守りたいという。だけど私は彼が私以上に“弱い”ことを知っている。彼だけじゃない。私たちはそれぞれに“弱い”。弱くて、それでもって脆い。
すっかり覚めてしまったスープの皿を持ち上げ、私はその中身を身体に流しこんだ。ただでさえ味の薄いスープはいつもに増して味を感じることを出来なかった。
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