短編
□俺がしてやれること。
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*ヒロインが死んでしまいます。
ポピー視点
今日はなまえとの最後のデートだ。
.......なまえは俺の隣からいなくなってしまうのだ。
別れるわけではない。
死んでしまうのだ。なまえは病気で死んでしまう。
最後にデートがしたいと言って、病院から出てきて、デパートにきた。
「なまえ、体辛くないか?」
「ふふ、大丈夫だよ。ポピー、さっきから心配しすぎ」
優しく、俺を安心させるように笑う。
この笑顔ももう、見れなくなるのか.....?
.......まだ信じられない。
「あ、そうだ。なまえ、好きなもん買ってやるよ。何か欲しいもんねぇか?」
実は今日のために金を全部おろしてきた。
金でもダイヤでも、好きなもんを買ってやりたい。
「え、そんな、ほんとにいいの?」
「当たり前だろ」
「じゃあ、じゃあね、これが欲しい」
そう言ってなまえが見せてきたのはウサギのぬいぐるみの写真。
なまえがまだ元気だったデートの時に、「見習いクラウンだった頃のポピーに似てる」と面白がって撮ったものだ。
「これ.....こんなもんでいいのかよバカ」
あまりに予想外の物で、俺はなまえの顔を覗きこんだ。
「これがいいの。欲しい」
.....なまえがあんまり優しく、けれど力なく微笑むから涙がこぼれ落ちそうになった。
「こ、これこのデパートに売ってたやつだよな。ほら行くぞ!」
こんななさけないかおをなまえに見せるわけにはいかず、慌てて俺はなまえに背を向けた。
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「うふ、うふふふふ、あははは!」
「.......何がそんなに面白いんだよ」
「だ、だってこれ、ほんと見習いクラウンだったポピーにそっくり、ははは」
「............」
くそ、なんか恥ずかしいじゃねぇか。
笑いが落ち着いたなまえは、俺の肩に寄りかかってきた。
「あの頃みたいに、楽しく生きてね。あんまり難しいこと考えすぎないでね」
「..............」
「ポピーは難しいこと考えてるより、楽しく笑って過ごす方が似合ってるよ。私はもう、いなくなっちゃうけど、幸せになって、ね....ポピー....ありがと....う...だ、い...すき...」
「..............」
そんなこと言うなら、お前がずっと側で俺のこと見ていてくれよ。笑わせたり、叱ったりしてくれよ。
その言葉は涙で声にならなかった。
なっていたとしても、もうなまえには届いていなかっただろう。
なまえはもう、息をしていない。
最後の言葉を言い終わると、すぅっと、眠るように、死んでしまった。
どうして、どうしてお前と幸せになれないんだ。一緒にいるだけでいいのに。
.......こんなことを考えても、もうお前は戻ってこない。