長編
□プロローグ
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『吸血鬼』
「迷子かねお嬢ちゃん」
「血を吸ってもいいかね?」
血色に妖しく光る瞳、唇から淫らにこぼれる牙をもつソレ、
人間の形をした猛獣。
ーーそれは
頭をつかまれ、押さえ込まれる。
首筋にかかる生温かい息。
「…!やだっ…」
何も知らない私でも感じる恐怖に背中が粟立つ。
その時、鋭い女の声が聞こえた。
『その子に触らないで』
そしてすばやく何か暖かくて柔らかいものにぎゅっと包まれる感触。
ドッッ
「吸血鬼の面汚しが」
鈍い音がし、真っ白な風景に赤いものが飛び散る…。
『枢、ありがとう。怪我はない?』
暖かいもの、女性と呼ぶにはまだ幼いが少し離れて立ち上がる。視界が開け、塵となり崩れ去ったものの後ろに赤い物にまみれた男の子がいた。
「ぼくは大丈夫です。姉様こそ大丈夫ですか?それに君も」
『私も大丈夫よ』
男の子の視線が此方をむく
「ねぇ…、どうしてこんなところに1人でいるの?」
「…。」
『…この場から離れましょう。おいで』
優しい声がわたしを導いてくれる。
『私は莉亜よ』
「僕は枢」
「君は?」
「……」
『そうよね、怖かったわよね。もう大丈夫よ』
私が震えてるのに気づいてだきしめて背中を優しくさすってくれた。
ーー私の記憶は十年前のこの雪の日から始まる。
雪の白と血の赤…
そして恐怖と優しく抱きしめられた記憶ーー