始まり

□始まり
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間違えた。確実に、絶対的に間違えたと断言できる。今取り組んでいるこの問題もそうだけど、もっと根本的なこと。転校先を間違えたのだ。

少し前のこと、私はこの椚ヶ丘中学校に転校するため、編入試験を受けていた。自分の学力にはそれなりに自信があった。以前いた公立学校では学年上位の成績だったし、きっと新しい学校でも上手くやっていけるだろうと、そう思っていた。
その脆弱の自信は早々に打ち砕かれることとなる。結果は合格レベルまで届いたもののギリギリのライン。合格証書を受け取った時、先生にこう揶揄された。「お前は未来のE組候補筆頭だな」と。汚いものでも見るかのような先生の目が、私の瞼裏にしっかりと焼き付けられた。この学校では生徒の成績が悪いと教師にも責任が問われるらしく、校則にも当たり前のように書いてあった。そりゃお荷物な転校生だよな、と自嘲した瞬間、私の自信は欠片も残さず消えてしまったのかもしれない。
それから悲惨な学校生活が始まった。休み時間も絶えずペンを動かしている彼らにまず気圧された。話しかけたら潰されてしまいそうな、切羽詰まった雰囲気が教室中に蔓延していた。多忙な生徒達に話しかけられる時間なんて実質ほとんどなくて、事務的な内容の会話ばかりに慣れていく。私一人が増えたからといって、彼らに何か影響があるわけではない。この教室では友情など二の次、勉学が全てなのだ。普段の授業も全然ついていけない。私の通っていた学校とはカリキュラムが違うため、中学2年にして既に3年の内容を学習していた。私にしてみれば突然単元が飛んだようなものだった。それに加え、テストに出題される問題は難しい応用問題ばかり、今やっているV期中間試験のこの問題
も、例外なく難問だ。全ては自己責任で、ついて来れなかった者はE組行きになる。それだけの単純な社会システム。
この遅れを、開いた差を、自分だけの力で取り戻せるとは到底思えない。だから、もういいの。考えることすら放棄する。一体、この学校に入ってから何度同じ後悔をしただろう。
もう、いいや。
結果は見えてる。思った通りになるだろう。だって、空白に丸は付かないから。この学校では一応個人情報としてテストの順位・点数は隠されるものの、それは学校外までの話。校内では生徒全員の順位を誰もが把握できる状態だった。
私だけがこの教室で一人だ。そして、これから卒業するまでの4年間、この状況が覆ることはないだろう。そして赤い点数は、どうやったって僕からは逃げられないんだよと、意地悪く笑って見せるのだ。逃げられないならせめて、堕ちれるところまで堕ちてしまおうか。

私は、教室を飛び出た。

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