short stories
□何と云おうと
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「──あぁ、それか。」
「……?」
「お前の前にレンに会ってよぉ。ちょっと聞いたんだ。」
神宮寺は"子羊ちゃんに相談しに、…ね。"と言ってその場を去ったらしい。
相談だと言うのに、愛してるという言葉はどこから出るのか。
「アレだろ。どうせあの女に"聖川さんのこと、本当に好きなんですか"、とか訊かれたんだろ。」
「それ、は……ないのでは……」
きっと神宮寺は七海の事が好きだ。
男の俺なんかではなく、女らしい七海の事が。
愛してるという言葉も、七海が想いを確認したものの解答にすぎないはずだ。
「……で、結局どうしてぇんだ。真斗は。」
「きちんと……伝えたいです。」
たとえ、残念な結果に終わったとしても。
俺がああ言った後、黒崎さんはそうか、と言って俺の頭をぽんと叩いた。
「………何かあったら言え。お前が気に病んでいるとこっちが落ち着かねぇ。」
「………ありがとう、ございます……」
「仮にも"先輩"だからな。」
「ランちゃん…………?……聖川………?」
良いのか悪いのか分からないタイミングで現れた神宮寺は、何を思ったのか俺たちをみて走り去って行った。
「……面倒くせぇな、お前ら」
そう言いながらも、黒崎さんは神宮寺の後を追って部屋を出ていった。
「………分からない。」
出会って十何年かたっても、神宮寺の考えていることは全く読めない。
……俺が、あいつの全てを知っているつもりだっただけか。
………そのうち、黒崎さんはまた帰ってくる。
……それまで、俺は……。