極楽鳥

□第1章
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 今か今かと生徒たちは待ちわびている。授業をしながらも、 秋山祐介あきやまゆうすけはそう感じ取っていた。おそらく自分の話など半分ほどでしか聞いていないはずだ。
 六限目の一コマ。残すところHRしか残っていないのだから当然だと思いながらも、祐介は時間いっぱいまで授業を進めた。
 生徒たちが待ちわびたチャイムが鳴る。ざわめきを形ばかり静めると、祐介は授業の終わりを告げた。一気に軽くなった空気を背に、祐介は教室を後にした。
 
 廊下ではすでに授業を終えた生徒たちが談笑をしていた。女性生徒は校則違反であるはずの短いスカートを穿き、生足を露出させている。この学校の女子生徒の制服は人気があると聞いていた。赤のチェック柄のスカートを見ても祐介にはなにがそんなに人気が高いのか分からなかった。
 まばらな職員室に戻ると祐介は自分の席に着いた。先ほど授業を行った2年A組にてすぐにHRが始まるため、必要な物を引き出しから出す。
 
「秋山先生は夜空いていますか?」
 
 準備を終え、席を立ったところで背後から声を掛けられた。小声であったが、聞き取ることが出来た祐介は振り返る。
 そこにいたのは国語教諭の永尾まりやだった。黒のスーツを着た彼女は二十六歳だというのに、大人びて見える。
 
「永尾先生でしたか。ええ、空いていますよ」
 
「じゃあいつものお店で」
 
 ウインクをするとまりやは、そのまま職員室から出て行った。一年生のクラスの副担任である彼女もHRがあるのだ。
 まりやの言葉に祐介の胸が跳ね上がった。下腹部に血液が集まっていく。それを周囲に悟られぬよう、祐介は足早に教室へと向かった。
 
 祐介とまりやは付き合って間もなく半年が経とうとしていた。まりやよりも二歳年上の祐介は社会科教諭で、たまたま開かれた教師たちの飲み会にて彼女が悩みを相談したことから二人の距離は縮まり、交際を始めた。
 交際を求めたのは祐介の方からであったが、まりやも祐介に気を持っており、両想いだった二人は未だ一度も喧嘩をすることなく交際を続けている。互いの両親にも会っており、結婚も意識しているが、まだそこに踏み切れていない祐介がいた。
 理由は仕事であった。祐介が受け持つクラスは二年生だが、すぐに受験を迎えてしまう。今受け持っている彼らの卒業を経てから結婚をしようかと、祐介は漠然と考えていた。今はまだ結婚よりも自分のクラスのことで手がいっぱいなのだ。

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