極楽鳥

□プロローグ
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 サイレンの音が鳴り響いていた。
 青白い月の光がカーテンを閉めていない窓から入り込んでいる。その光を受け、小嶋翼の肌が更に白さを増している。
 元が色白だった彼の肌。それが消えてしまいそうなほど白くなっているのを見た翼は、このまま消えてしまいたいと思った。
 
 翼の足元では、倒れ込んだ女の髪がクジャクの羽のように広げていた。漆黒の髪は月の光を受けても、翼の肌のようには白くはならない。
 もう飛ぶことのない彼女を見下ろしながら、翼は彼女がくれた鳥類図鑑を思い出した。彼女が気に入ったという鳥のページには付箋が貼ってある。お気に入りだとアピールをしたかったのだろうかと、今更ながらに翼は思った。
 どんな鳥だったか。図鑑を貰ったことは覚えていても、どんな鳥であったかは思い出せなかった翼は本棚から図鑑を取り出し、布団に寝転んだ。
 ページをパラパラとめくると、付箋が貼ってあるページを見つけた。それを見た翼はようやく思い出した。『極楽鳥』だ。翼は月明かりを頼りに文字を目で追った。
 図鑑を読むに正式名ではないようだが、そんなことはどうでもよかった。名前など固有名詞に過ぎないし、たとえ間違っていたとしても通じればいい。
 名前よりも翼は極楽鳥が雄と雌では外見が違うことが気になった。雄が外見は美しい飾り羽を持ち合わせているのに対し、雌は地味で外見をしているという。
 なるほどと翼は納得した。これは自分たちに当て嵌まることだ。雄である自分は確かに美しい飾り羽を持ち合わせている。
 それに対し、彼女の髪は黒く、どことなく地味だ。極楽鳥が好きな彼女はもしかしたら自分たちをこの関係に見立てたのだろうか。
 そんな疑問を抱いても、もうそれに答えてくれる彼女はいない。せめてこれだけは訊いておいてもよかったかもしれないと翼は思い、図鑑を放り投げた。
 



 サイレンの音がさっきよりも大きくなった。




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