short/温かな光

□幸せをあなたに
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(失ったものは、きっとわたしの想像を遥かに越えている。
それなのにどうして、戦い続けるんだろう)





「ナマエ…?」

「団長、おかえりなさい!」


部屋に戻れば、ナマエがソファーに座っていた。
私の顔を見て満面の笑みを浮かべてくれる。


「どうした?なにか相談事かい?」


またいつものように急に現れたな、と思いながらくすっと笑うと、ナマエは少し頬を赤らめて


「用事がなきゃ、来ちゃいけませんか?」


となんとも可愛らしい事を言った。


「いや、いつでもおいで」

「良かった!」


とナマエの顔が綻ぶ。
私がジャケットを脱ぐと、ナマエがそれを受け取りハンガーにかけてくれた。私はソファーに座る。


「コーヒー飲みますか?」

「ああ、ありがとう」

「紅茶とどちらがいいですか?」

「君が飲むものを、ふたつ」


そう言うと、なぜかナマエは一瞬立ち止まって、それから「もー」と頬を膨らませた。


「団長、誰にでもそんなに優しくしちゃダメですよ」

「どうして」

「どうして、って…女性兵士達がキャーキャーうるさいからです」

「おや、ヤキモチを妬いてくれたのかな?」


ふふ、と笑えば、ナマエの顔が真っ赤になった。笑ったり膨れたり照れたり、忙しい子だ。


「団長がいつも色気を振り撒くから、周りもその気になっちゃうんです」

「ナマエはなかなかその気になってくれないがね」

「わたしは真剣に団長の身を案じてるんです!」

「おっと、こりゃ失礼」


ナマエが淹れたのは紅茶らしく、コポコポと心地よい音と、アッサムのいい香りが漂ってきた。


「今日、女性兵士のひとりが団長に優しくされた、って騒いでました」

「…そんな事があったかな」

「団長は無駄に愛想を振り撒きすぎです」

「はは、君に言われたくないな」

「団長!もしその女性兵士が本気で団長を好きになったらどうするんですか」


そんな事を言われても…と考えていると、目の前に紅茶のカップが置かれた。
ナマエは向かいのソファーに座る。


「わたしは団長に幸せになってほしいんです」

「ナマエはまるで、私のお母さんだな」

「わたしはそんなにおばあちゃんじゃないです!」


ナマエはそう言ってまた頬を膨らませた。


「だけどナマエ、」


と、手招きしてナマエを右隣に座らせる。


「私はもう、十分幸せだよ」

「え」

「ナマエがこうして来てくれるからね」


と頭を撫でると、うっとりとナマエは笑った。


「なんだか恥ずかしいですね」

「そうかな?」

「そうです」


と、私とナマエは同時にカップを手に取った。
それが可笑しくて、二人して笑った。


「団長」

「ん?」

「わかるかもしれません。わたしも今、とっても幸せです」

「…ああ、そうだな」


そのままナマエの肩に右腕を回すと彼女は少したじろいだが、しばらくすると嬉しそうに私に体を預けてくれた。

優しい温もりに、心が柔らかくなるのを感じる。


「ナマエ」

「はい」

「ありがとう」

「え?」

「君と出会えて良かった」


それは悲劇から生まれた出会いではあったけれど。


「団長」

「ん?」

「わたしこそ、ありがとうございます」

「………」

「わたしに、生きる場所を与えてくれて、ありがとうございます」

「ナマエ…」


そう名前を呼んでナマエの顔を覗くと、彼女はにこやかな表情で眠っていた。


「おや」


つい笑みがこぼれてしまう。

そして、彼女の愛らしい唇に自分の唇を重ねた。
ちゅ、と音をたてて離れると、ナマエが「ん…」と声をあげた。
たまらずにもう一度、唇を重ねる。さっきより少し深く、長く。

さすがにそれ以上は、と思い紅茶を飲んでいると、乱雑に扉が開けられて、私は「静かに」と忠告する。


「静かに、じゃねぇエルヴィン。なにやってんだ」

「おやリヴァイ。邪魔しに来たのかね」

「ったく、いつまでも帰ってこねぇと思ったら…!」


私はナマエに回していた右腕を解いた。


「何もしてねぇだろうな」

「さぁ、どうだか」

「…チッ」


こんなやりとりも毎回の事だ。


「リヴァイ」


すやすやと眠る彼女を抱え上げながら、リヴァイは振り向いた。


「ナマエを頼むよ」

「…わかってる」



私は幸せだよナマエ。
優しい君はきっと、私を憂いて笑顔を見せに来てくれたのだろうけれど。

扉の閉まる音と同時に、唇に残る感触を思い出した。

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