short/温かな光

□兵長の誕生日
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みんなに何を聞いたって、結局決めるのは自分。
ハンジに至っては「やっばり甘えまくるナマエでしょー」なんて恥ずかしい事を他兵士達の前で大声で言うもんだから、その眼鏡をまたも反射的に砕いてしまった。
鼻血が出てた気もするけど、まぁそれは致し方ない。だって悪いのはハンジだもの。

だけど、その日はやっぱりわたしだけのリヴァイじゃないのだ。
食堂で兵長のバースディパーティーが行われて、わたしはなんだかポツンと隅っこでそれを眺めているのだ。
みんなから祝福されるリヴァイ。決してにこりとはしないけど、そして後で照れ隠しに悪態をつくのだろうけど…仲間に祝福されて嬉しいに決まってる。


「どうせ、あとでゆっくり出来るのだろう」


そう肩を叩いてきたのは、エルヴィン団長だった。
わたしの正面に腰を下ろした。


「だけどリヴァイ、あんなにお酒を飲んで…」


と言ったところでハッとする。
お酒を飲んだっていい。別にわたしは、ただ彼におめでとうって言って、一緒に眠るだけで…


「リヴァイが飲んでるのは、弱い酒だ。しかも水と交互に飲んでる。ナマエが寂しがるような夜にはならないよ」


と、団長は真っ赤になってしまっているわたしを見てクスクス笑った。


「べ、別に期待してるわけじゃ…!」

「期待したって恥ずかしがる事はない」

「ちょ、団長っ…!!」


その時、不意に後ろから抱き付かれる感触がして、わたしは「ひゃっ」と驚きの声をあげた。
団長も驚いているのを見ると、どうやら想定外の人物のようだ。


「だ、誰…?」

「ナマエ……」


その声で、わたしはその少年がジャンだとわかった。


「ジャ…ジャン、ダメだよ、まずいよ!」


きっとリヴァイは兵士達にワイワイ囲まれていても、この状況を見ているはずだ。
まずい事この上ない。それを物語るように、団長の口があんぐり空いている。


「ナマエ、その少年は…」

「えっと、104期の、ジャン、です…ちょっと、ジャン…!」


どうやらジャンは泥酔しているようだった。


「ジャン、子どもがお酒飲んじゃダメじゃない…!」

「俺、子どもじゃねーから」

「わかったから、ほら離れて。部屋で休みなよ」

「ナマエ、連れてって…気持ち悪いかも…」


団長の視線が痛かった…。わたしが104期の兵士達と仲がいい事はわかっていただろうが…まさか後輩にこんな扱いを受けていると言うのは、知らなかっただろう。


「ナマエ、彼は私が部屋まで送ろう」

「いえ!団長のお手を煩わす訳には!!」

「しかし」


そこへ、誰かが団長を呼ぶ声が聞こえた。わたしはその隙を狙って、ジャンの腕を肩に回し、食堂をあとにした。
新兵を部屋に送る事など、団長には不躾すぎて任せられる訳がない。



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「ジャン、飲み方がわからないのは、まだまた子どもの証拠なんだからね。明日巨人が来たらどーするの、まったく…」


わたしはぶつぶつ言いながら、ジャンをベッドに寝かせた。
すると、


「ナマエ、俺はもう大人だ。だって全然、酔ってねぇ」

「え」


ぐい、と力任せに引き寄せられて、横になっているジャンの腕の中に、すっぽり収まってしまった。
…少しは酔っている。
こんな事して、きっと明日後悔するくせに。


「離して、」

「ナマエ、今夜はここにいろよ…」

「なに言ってるの、馬鹿」

「だって帰ったら、兵長に抱かれるんだろ」

「な…!!」


ジャンは何が言いたいのだろう。やっぱりかなり酔っ払ってしまっているのではないだろうか。


「ナマエがパーティーで兵長を遠目から見てんのは、どーせ部屋に帰ったら二人きりになれるからだろ」

「ちょっとジャン、やっぱり飲みすぎてる。お水持ってきてあげるから待ってて」

「いいから」


と、抱き締める力が強まって、離れられない。


「ねぇジャン、もしわたしがここにいる事がリヴァイにバレたら、ジャンのうなじ削がれちゃうよ」

「ナマエが守ってくれんだろ…」

「もう…どうしちゃったのジャン」

「ナマエ、挨拶してくれ」

「え?」


ジャンの挨拶…それは、ジャンの故郷での挨拶で、つまり、唇と唇を重ねる事だ。
(実はナマエの勘違いなのだが)


「で、でも」

「単なる挨拶だから」

「………」

「そしたら、ナマエ、帰っていいから」


と、ジャンの瞳が揺れている。


「…今日は、出来ない」

「ナマエ」

「離して、ジャン。ジャンにとってキスは単なる挨拶かもしれないけど、わたしにとっては特別な人とする事なの」

「……そっか」


そう言って、ジャンはわたしを解放してくれた。
ホッとしたのと、なんだか悪いような事をしてしまったような気持ちだった。「ごめんねジャン。また今度来るからね」と、部屋をあとにした。



その廊下で、なんだかしかめっ面をしている人に会った。
頭がモシャモシャで、唇に噛み傷があるのが目に入った。


「お前、確かリヴァイ兵長の…」

「あ、ナマエ・ミョウジと申します」


とりあえず右拳を心臓に当てる。


「あの、あなたは…」

「俺か?俺の名はいずれ嫌でも聞く事になるだろうから今お前に名乗る必要はないんだが…まぁどうしてもって言うなら、教えてやってもいいがな」


どこかで見た事はあるけれど…と思いながら「はぁ」と答えると、後ろからペトラが歩いてきた。

「ちょっとオルオ!ナマエをからかっちゃ兵長に叱られるわよ。…ごめんねナマエ、オルオったら兵長に憧れて、最近こんな口調なの」

「そ、そうなんですか…でも、あの、リヴァイはそんな事言わないような…」

「あ、そうだわナマエ、兵長が探してたわよ」

「あ、そうだね、戻らなくちゃ。ありがとうペトラ!」


相変わらずペトラは可愛い。すっごく可愛い。
あれで巨人を討伐する技術に長けてるんだから、天は二物を与えずなんて嘘だ…。

そしてわたしは慌てて食堂に戻った。



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が、そこにリヴァイはいなかった。
新兵達が掃除をしていた。


「あ、エレン…リヴァイはもう部屋に戻ったのかな」


床の拭き掃除をしていたエレンに訪ねた。


「あぁ、ナマエ。兵長なら、もしかしたら団長の部屋かも。団長と食堂を出てたから」

「そっか、ありがとう」

「それはそうと、」


と、食器を洗っていたミカサが声を掛けてきた。
おいでおいで、と手を動かしたので、彼女に近付くと、


「ジャン…大丈夫だったの?」


と小さな声で言った。


「あぁ、ちょっと酔ってたみたいだったけど、大丈夫みたい」

「じゃなくて、」


ミカサが蛇口をひねって、水を止めた。


「あれはどう見てもナマエに落ち度がある」

「え?どゆ事?」

「あのままジャンに襲われても、ナマエが悪い」

「ミカサ?悪い冗談――」

「早く兵長のところに行った方がいい。すごく心配してた」


ミカサのまっすぐな目には逆らえない。わたしは小さく頷いて、お礼を言うのも忘れて部屋へ戻った。
リヴァイが怒ってるかもしれない…そう思うと、とっても怖かった。

今日は特別な日。
リヴァイを大切にしたいのに…。



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部屋に入ると、シャワー室からお湯の音が聞こえていた。彼が部屋にいた事にホッと胸を撫で下ろす。
わたしはリヴァイがシャワー上がりに飲むであろう紅茶の用意をして、彼を待つ。

しばらくしてリヴァイがシャワーからあがってきた。
わたしがドキドキしているからか、少しお酒が入っているからか、普段の彼とは、なんだか雰囲気が違って見えた。
なんと言うか、穏やかなような、大人の色気と言うか…いや、もう彼は十分大人なのだけど。


「リヴァイ、ごめんなさい、中座して…」

「構わねぇよ」

「怒って、ない?」

「いちいち聞くな」


うぅ…少し怒ってるかもしれない。と思いつつ、紅茶を淹れ、テーブルに置く。


「ナマエ」

「ひゃい!」

「……なんか、緊張してんのか」


変な声が出てしまった事を笑いもせず、リヴァイは眉間にシワを寄せた。


「あ、あのね、リヴァイ!」

「なんだ」

「あ、ちょっと待って…!」


彼がシャワーに入っている間に用意しておけば良かったと自分の要領の悪さにガッカリしながら、わたしは今日まで隠してあったプレゼントを差し出した。


「え、っとね、プレゼント…3つ、あるんだけど…」


まず、ハンカチを彼に渡した。50枚。すべて手作りだ。


「巨人の血とかで汚れたら、わたしのハンカチで拭いて!」

「…なんか、使いづれぇな」

「なくなったらまた作るから!」

「それじゃ誕生日プレゼントじゃねーだろ」

「あ、本当だ」


リヴァイは、ふ、と笑った。それに合わせて、わたしもえへへと笑う。


「え、とね、次は…」


気を良くしたわたしは、次のプレゼントを差し出す。
ペンダント型の懐中時計だ。


「わたしが前にリヴァイにもらったのと同じ理由だよ。どこにいても、同じ時間を生きようね」


その懐中時計をじっと見ながら、リヴァイは「あぁ」と小さく言った。
同じ時間を生きる…この世界では、わたしたちは生きる事に意味があるのだ。


「で、最後なんだけど…」

「ナマエ、もう十分だ」

「違うの、これが一番重要なの…!」

「?」


しばらく続いた静寂の後、わたしは言った。


「お…思いきり、抱いて欲しいの…特別な日に、相応しいように…」


リヴァイの目が少し見開いた。
少し戸惑っているようにも見えた。
だけど次の瞬間、彼はわたしの腕を捕み引き寄せ、荒々しくも優しいキスを繰り返した。


「んっ…は、ぁ、リヴァ…っ」

「望みを、叶えてやる…」

「ち、違うのっ、リヴァイに喜んで欲しくて…」

「お前が喜びに満ちて乱れ喘ぐ事が、俺の幸せだ…」


かぁ、と全身が一気に熱くなった。
角度を変えながらまったりと続くキスに、脳がとろけてしまいそうだ。


「ん、っリヴァイ、わたし、シャワー…」

「必要ねぇだろ…」

「だめだよ、ん、ぁ嫌、汚いからっ」

「ナマエなら…何も汚くねぇ、…っ」

「ん、ふぁ…ぁ…っん」


「好き」「大好き」わたしはキスの合間に、何度も繰り返し彼に伝えていた。






後編へ続きます。
ただし後編はr18となっておりますので、ご注意下さい。


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