short/温かな光
□兵長の誕生日(エルヴィン)
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静かに団長室をノックすると、柔らかな返事が聞こえた。
アポは取ってある。
「どうしたナマエ、きちんと連絡してから来るなんて珍しいな」
「う…」
確かにいつも突然押し掛けてはいるが…と反省し、団長に促されソファに腰掛ける。
団長は書類に向かっていた手を止め、わたしの隣に腰掛けた。
「あ、あの」
「なんだい?」
「お忙しい中、時間をつくって頂いて、ありがとうございます。その…」
「ナマエの為なら、いつでも」
「え、っと、ですね」
相変わらずの甘い言葉を交わして、わたしは思いきって、エルヴィン団長に言葉を発する。
それはとても勇気がいる相談なのだ。
「あの、ですね」
「ん?」
「もっ……っもうすぐ、リヴァイの誕生日なんですけどっ、男の人は、何をもらったら嬉しいですかっ」
エレンやジャン達に訪ねる時は、こんなに緊張しなかった。
どうしてエルヴィン団長にはこんなに緊張するのだろうか、なんて…答えは決まっている。
団長が元カレだからだ。
「そう言う事か」
と団長は笑った。
それは苦笑いのようにも見えた。
「わたし…ど、どうしてもわからなくて」
「それを私に聞くなんて、意地が悪いな、ナマエは」
団長の指が、わたしの髪をさらりとすくった。
色気を含んだ声をまたも交わして、わたしはポケットからペンとメモ帳を取り出す。が、おそらく団長の色気を交わしきれていないかもしれない…自分でも顔が熱いのがわかった。
「とにかくっ、団長だったら、何が欲しいですかっ」
「私だったら…君が欲しい、かな」
本当にこの人は、いつもこうだ。そうやってわたしをからかって楽しんで…
「団長っ!わたし、真剣なんです!」
「私もだよ、ナマエ」
「う……」
団長には敵わない。そんなわたしの表情に、満足気に彼は笑う。
そして、
「リヴァイも、同じだろう」
と言った。
「?」
「例えば、」
「はい!」
ペンを握る手に力を込めた。
「……いや、やめておこう」
「え、なんでですか団長!教えて下さい!」
「いや、君がリヴァイにそんな事をと思うと…はぁ、いたたまれないな」
「…団長、変な事考えてますね……」
「ダメだなぁ私は」
団長は席を立って、書類の続きを始めた。
「団長?」
「ナマエ、君はこれ以上ここにいると危険だよ」
「え」
「リヴァイのところに帰りなさい」
にっこりと微笑んで、エルヴィン団長は言った。その頬はほんのり赤く上気していて…
「だ、団長、ありがとうございましたっ!お忙しいところっ!」
サッと潔く席を立ったつもりのわたしだったが、団長の色気に負けまいと慌てた結果、足をもつらせて派手に転んでしまった。
「ぷっ」
と、団長が笑う。
その笑顔にほっとして、様々な過去を思い出した。
「団長…私、団長の無邪気な笑顔が好きです」
と上司に向かって口を滑らせてしまった。
「あ、いえ、決して、失礼な意味では…!」
団長の事は、今でも確かにお慕いしている。だけどわたしはリヴァイを愛しているのだ。
だからもう、エルヴィン団長への恋心は、ない。
「あ、ありがとうございました団長!わたし、リヴァイの誕生日には、自分をプレゼントしたいと思います!」
自分でも恥ずかしい言葉を発しているのに気づかず、わたしは団長室をあとにした。
「……失言、だったな。適当にガスでも渡しとけと言えば良かったな」
エルヴィンはナマエの為を想い彼女をリヴァイに託したと言うのに…
いざ他の男にとられると、やはり嫉妬の感情が芽生えているのだった。