short/温かな光
□兵長の誕生日(ジャン)
1ページ/1ページ
「あのね、あのね!」と顔を真っ赤にしながら話す目の前のナマエが、俺のものであったらと…どれだけ思っただろう。
「そんなの、本人に聞きゃあいーだろ」
「バレちゃうのばダメなの!サプライズじゃないと!」
恋人の誕生日を目前に、プレゼントは何がいいだろうと俺の気も知らず相談に来た。
…相変わらず呑気な奴だ。
「俺が兵長の好みなんか知るわけねーだろ」
「ジャンだったら何がいい?」
「………は?」
「そもそも、男の人の好みがわかんなくて」
なぜだか照れてしまった俺を見てなのか、ナマエは顔をさらに赤らめて下を向いた。
…可愛いな。
もちろん俺なら…欲しいのはナマエに決まってる。本当だったら今この瞬間にでもナマエを押し倒してしまいたい気持ちを、ナマエが兵長の恋人だから我慢してるだけだ。
それがなんでいつも、こう、のこのこと男の部屋に来るんだこいつは。
「好きな女からなら、なんだって嬉しいんじゃねーの」
「た、例えば!?」
職業病なのか、メモ帳とペンをしっかりと握って俺を見つめる。
兵長の為に見つめる瞳じゃなければ、俺は今すぐに抱き締めているのに。
「わかんねーって…やっぱ本人に聞くのが……」
ん、待て。
兵長が「ナマエが欲しい」と言ったらどうしたらいいんだ。俺は責任をとれねぇ。
いやもうとっくにそんな関係にはなっているんだろうが、……いや、なってるのか?目の前で純粋に恋人へのプレゼントに悩むこいつは、恋人とはいえ奴…いやいや兵長と、そんな関係になってるのか?
なっていないのだとしたら、「本人に聞け」なんて、軽々しく言えねぇ。
ナマエの貞操を軽々しく渡してなるものか。
「ジャン?どうしたの?」
「え、あ…いや」
「なんだかすっごい汗かいてるけど…」
とポケットからハンカチを出して、ナマエは不意に俺の頬を伝う汗を拭った。
…明日死んでしまうかもしれない人生で、この状況だ。このまま押し倒してしまおうか。
「…ジャン?」
ぐ、とナマエの肩を両手で掴んだ。
ナマエがきょとんと俺を見る。
そんな風に見上げるな。やばいから。
「ナマエ、あの…」
だけどそんな事をして泣くのはナマエだ。怒るのは兵長だ。うなじを削がれるのは俺だ…
だがどちらにせよいつかは終わる命だ。好きな女を抱いた代償なら、それはそれでいいのかもしれない。
「ジャン、ごめんね、困らせちゃって」
「え、」
「なんだか体調悪いの?今日のジャン、いつもと違うし…」
そりゃそうだ。いつもいつもナマエを想ってる俺の気持ちを考えてみろ。
呑気にのろけ話ばっかりしやがって。
「兵長とジャンは違うもんね。難しいよね」
あはは、とナマエは笑ってメモ帳とペンをポケットにしまう。
ナマエの肩を掴む手を離せずに、そしてどうする事も出来ずにいると、
「ジャンは、好きな女の子いるの?」
と馬鹿みたいに呑気な質問が飛んできた。
ダメだ。
…ぐい、とナマエを引き寄せて、その柔らかそうな唇を奪った。…柔らかい。
がむしゃらに食いついてしまいそうな衝動を抑えて顔を離せば、ナマエは「いつもの、挨拶?」と顔を赤らめた。
依然キスしてしまった時に勘違いした、そのままの様子だ。
そして、ナマエの手が震えている事に気付く。
「ナマエ…」
「なに?」
考えてもみろ。と自分に言い聞かせた。男が好きな女を抱かない理由はない、自分だってそうだ。ナマエと兵長はとっくにそういう関係だ。
ナマエは兵長が好きなんだ。
「兵長は、お前に優しいか?」
「え…、うん。優しいよ」
「やっぱり、本人に聞けばいいと思うぞ」
ナマエに触れている手を離した。
くそ、このまま今日もモヤモヤしなきゃなんねーのかと考えると、隣にいるナマエを憎みそうになってしまう。
「ジャンは優しいね」
と、戦死した友と同じような事を呟いて、ナマエは俺の部屋を後にした。
「馬鹿、二度と来るな…!」
扉に向かって悪態をつく。
12月25日の夜は…誰かとパーっと騒ごうか。