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□酒は呑んでも飲まれるな
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その日の夜、ナマエがワインを持って部屋に現れた。
「どうした、それは」
「団長のところから、ちょっとだけ拝借してきちゃった!一緒に飲もー」
「お前なぁ…」
ナマエは俺が入団した頃に訓練兵だった女で、今では兵士長となった俺の背後を任せている存在だ。まぁ、つまり同期である。
「え、リヴァイまだ仕事?なんか手伝う事ある?」
「いや、もう終わる」
「じゃおつまみ広げて待ってるね〜」
ナマエは当たり前のようにソファーに座った。奴はよく俺の自室に現れる。前にさりげなく理由を聞けば、居心地がいいからなんだとか。
まぁそりゃそうだろう。足の踏み場もないほど散らかっているお前の部屋に比べれば。
「リヴァイ、早く早く!」
「うるせぇな、ちょっと待て」
「今日のおつまみは、内地で買ったチーズだよ!」
「わかったよ。ったく」
そうして手早く仕事を終わらせ(いや、残りは明日に回す事とし)、俺はナマエの隣に座った。
「なんだコレ、大丈夫なのか。エルヴィンのお気に入りのワインじゃねーか」
「ちょうだいって言ったらくれたの!団長って優しいよねー」
そりゃお前だからだろ。との言葉は胸にしまった。エルヴィンはナマエに一目置いている。
それがどんな感情かは俺の知るところじゃないが。
「はい、お疲れ様」
とナマエがワインをグラスに注ぎ持ち上げる。いつものようにチリンと軽く乾杯をして、俺はワインを飲んだ。
「飲みやすいな」
「でしょ?だから実は2本もらってきちゃったの。それで足りなかったら、リヴァイの隠してるワイン飲もうね〜」
「なんで知ってんだ」
「この間内地で買ってるの見ちゃったもん。…もう飲んじゃった?あ、彼女さんとかと?」
「彼女なんているわけねーだろ」
「え、そうなの」
とナマエはチーズを口に運ぶ手を止めない。
ナマエとは…こんな言い方をすると誤解を招くかも知れねぇが、親友のような関係と言えるのだろう。なんでも気楽に相談でき、価値観もそこそこ合う。戦闘においてもなんの相談もなしに連携が図れる。
ただ、お互いに恋愛感情を抱いているわけじゃねぇ。
…と俺は考えているし、そこに恋愛感情があったとしても、血生臭い世界でそれはどーにかなる問題でもねぇ。
「ナマエ」
「ん?」
「もうないぞ」
2本目のワインを飲み終えたところで、ナマエはとろんとした表情をしながらも「足りないー」と駄々をこねた。
「ったく」
俺はナマエの言う通り隠していた上等なワインを取り出した。
「なんでそのワイン、隠してたの?」
「お前が部屋に来て何でも飲み尽くしてくのが不安だったんだよ。コレはとっておきなんだからな」
「酷いなぁ。わたしと一緒に飲む為なのかなーって思ってたのにぃ」
不甲斐なく、こいつが初めて女に見えた。
「わたしはリヴァイと一緒に飲むお酒が一番好き〜」
「お前だいぶ酔ってんだろ。その辺にしとけ」
「じゃあリヴァイももっと飲んで」
「…酔っぱらいが」
開けたワインは、結局ほとんど俺が飲んだ。おかげで、少し酔っちまったようだ。
「リヴァイが酔うの、久し振りに見たぁ」
「あぁ?」
「でもあの時って、ハンジとかミケとか、あ、団長もいたねー」
そうだった。あの時は確か、俺が兵士長に就任した祝いのような場だったなと思い出した。そこへハンジがナマエを連れてきて、どんちゃん騒ぎとなったのだった。
「リヴァイって酔うと可愛いねー、えへへ」
「ナマエ、お前削がれてぇのか」
「でもさ、実際、…ここだけの話だよ。わたしが巨人に殺られそうになったら、リヴァイがわたしを殺してね」
「バカか」
「リヴァイになら、殺されてもいいから」
とナマエの頭が俺の肩にもたれ掛かる。おいおい。急に女っぽくなってんじゃねーよ。
「ナマエ、部屋に帰って休め」
「どして?まだまだ話したい事いっぱいあるよ」
「そういう問題じゃねぇんだよ」
今日のナマエはおかしい。いくら酔ったって俺に甘えてくる事なんざねぇ。
…誰かと間違えてたりしてんじゃねぇだろうな。
「ナマエ」
「ん?」
「お前、付き合ってる奴とかいるのか」
「いないよ〜今一番気になる人は巨人かなぁ。あ、ハンジとはちょっと違うからね」
じゃあ今日のナマエはどーしたってんだ。なんかあったのか?友達でも巨人に殺られたか?
「リヴァイ…」
「どうした」
「いつまで一緒にいられるかなぁ。先に死んじゃダメだからね。そんなの寂しい」
「酔ったナマエは弱音ばかりだな」
「リヴァイにだけ、特別だから」
とナマエは笑った。
「ナマエ、やっぱり早く部屋に帰れ」
「あ、追い出すなんて酷いー!」
「そうじゃねぇよ。俺も多少酔ってんだ」
「?」
「だから、その…」
クソ、と心の中で舌打ちをする。同時に無防備な、だけどきっとこんな姿は俺にしか見せないであろうナマエに心臓が跳ねた。
そして事もあろうか、気付けば隣に座る細身の体を抱き締めてしまっていた。
「………」
「…リヴァイ?」
「黙れ」
それが酒のせいだときっとお互いが知っている。
もぞ、と動いたナマエは、突然俺の服をきゅ、と握り、俺の唇に自分の唇を重ねてきやがった。
「………!!」
ナマエがくれたただ触れるだけのキスに、俺はもうどうにでもなれと我慢の限界を越えたようで。
ナマエの後頭部を抑え、深く荒くキスをした。
「リ、ヴァ…っ」
「誘ったのはお前だぞ」
「だけ、ど」
熱っぽいキスを何度も交わし、そのまま俺はナマエをベッドへ運んだ。
「リヴァイ…!」
「うるせぇ」
「だ、だめ」
「黙れ」
「ん…っ……」
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なんだこの光景は。
一体何があった…。
なぜ、ナマエが下着姿で俺の部屋の俺のベッドで俺の隣に寝ている。
俺はナマエにシーツを深く被せ、必死に思考を巡らせた。
昨日はナマエがワインを2本持って現れ、それが足りないと言って俺の部屋にあったワインを出した。
それから…
は、記憶にない。
「ん…」
とナマエが目を冷まし、同じく下着姿の俺を見て「ひゃあ!」とシーツを被る。
「リ、リリリ、リヴァ…、ちょ、あの…」
「黙ってくれ…俺にも訳がわからん。頭は痛ぇし、なんだってんだクソ」
「あの…わたしも全然、覚えてなくて…」
なぜか「ごめんなさい」と謝るナマエ。
「勘違いするな。早く服を着ろグズ」
「う、うん…!」
背後でナマエが服をまとう音がする。その音に、やけに心臓がバクバクと音を立てた。
「リ、リヴァイも、服着てよ」
「…言っとくが、全然覚えてねぇし、お前の事なんかなんとも思ってねぇからな」
「う、うん!それでいいよ!だって仕事がやりにくくなっちゃうし、ねっ!!」
焦るナマエの声すら、今の俺にとっては心が高ぶる要素になる。
一体どうしちまったんだ。
というか、本当に昨日、何があったんだ…
「お、お世話になりましたぁー…」
とナマエは静かに俺の部屋を後にした。
残ったナマエの香りと、くしゃくしゃなシーツと、…呆然とした俺。
クソ…
しばらく酒なんか、飲まねぇからな。
Ende.