パパと兵長とわたし
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エルヴィンの言葉に耳を疑った。だが当の本人はケロリとした笑顔でハンジに「ね?」とウインクしている。
「いやどう考えてもおかしいだろう」
「しかしナイルがそこまで言うんだ」
そこまでもなにも…と思いながらベタベタくっついてくるナマエを剥がす。
「ナイル団長は昔から言ってました。『その髪と眼を見てるとなぜだかエルヴィンを思い出す。あぁもしかしたらお前はあいつの娘なのかもな。そうだあいつならそういう事があってもおかしくない。きっとお前はエルヴィンの娘だ』。だからわたしエルヴィン団長がパパだと思うんです!」
「リヴァイその子すごいね」
「ネジがぶっ飛んでやがる」
久し振りにハンジと意見が一致した。
しばらくうーんと唸っていたエルヴィンだったが、
「わかった。今日から君は私の娘だ」
と肩を上げ両掌を上に開いて降参ポーズを見せた。「ナマエ可愛いしね」と小さく聞こえたのは気のせいだ。エルヴィンはそんな事言わない。
「じゃあパパ、お勉強教えて!」
「わかったよ。何を知りたいのかな」
穏やかに微笑むエルヴィンと楽しく笑うナマエを見ていると、本当の親子のような気さえしてきてしまう。
水入らずだ。退室しよう。
「ねぇパパ、エレン・イェーガーの巨人の力はやっぱり憲兵団に託すべきだと思」
「おいクソガキ、こっちに来い」
何が親子だ、完全に憲兵団からのスパイじゃねぇか。やっぱり最初の読みは当たってたんだなとナマエを廊下に連れ出した。
「やだなぁ兵長、強引です」
「狙いはなんだ、エレンか」
「いくら思春期でもこれから反抗期なイェーガーより年中反抗期っぽい兵長の方が可愛いです」
「怖いよリヴァイ、この子なんか怖い」
とにかくエルヴィンとナマエを接触させるのは危険だ。しばらく俺がかくまう事としよう。
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自室にてナマエと話をする。明日にでもまたエルヴィンと話し合おうと思うが、取り合えずここにいる間は憲兵団のナマエにウロウロされちゃ困る。
「え、兵長と寝てもいいんですか!」
「話を最後まで曲げずに聞け」
「はい!」
「この部屋は自由に使っていい。ただし俺の許可なく部屋を出るな」
「か、監禁てやつですか!」
「断じて違う。そして赤くなるな」
ナマエはキョロキョロと部屋を見回している。どれだけ探ろうと思っても無駄だ、この部屋に機密事項は置いていない。これでひとまずは安心だ。
俺は机に向かいペンを取る。
「兵長、一緒にハンジ分隊長のとこ行きましょうよ」
「今忙しい」
「退屈ですー」
「静かにしてろ」
「わたしにお手伝いできる事ないですか?」
ナマエは俺の後ろに回り、両肩に手を置き肩揉みを始める。
「兵長、肩凝ってます」
「揺らすな、サインができん」
「パパのとこに行けないなら、わたしに何か仕事をください」
堂々としたスパイだな、と感心してしまう。
「なら掃除をしろ」
「え?」
「部屋の埃を拭け、徹底的にだ」
「プロポーズ!!」
「全く違う。赤くなるな」
ナマエはデレデレとした表情で万歳をし掃除セットを用意する。掃除に嫌な顔をしないところは、まぁ悪くない。
「ねぇ兵長」
「その媚びるような仕草はやめろ」
「水汲み、行ってきてもいいですか?」
まぁそれくらいなら差し支えないだろう。
「行ってこい」
ナマエはバケツを手に鼻唄を歌いながら部屋を出た。
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一時間が経過したがナマエが部屋に戻らない。まさか諜報活動を始めたか。やはり部屋から出したのはまずかったか。
「ねぇリヴァイ!ナマエいるー?」
ハンジか。ノックと同時に開けるな。俺はノックなんかしないがな。
「掃除用の水を汲みに行ったまま戻らねぇ。世話のかかる奴だ」
「一般兵に見つかるとちょっと面倒だね」
エルヴィンに隠し子がいて憲兵団でスパイ。そんな噂が広がれば士気に関わる。それは阻止せねばならない。
「…チッ」
と舌打ちをしたのと、エルヴィンとナマエが現われるのは同時だった。
「どこに行っていた」
「リヴァイ、ナマエを責めるな。迷ってしまったそうだ」
「兵長ごめんなさい。パパありがとう」
しゅんとしてしまったナマエに二度目の舌打ちをする。しかし見つけたのがエルヴィンで良かった。
「パパ、またイェーガーのとこ連れてってね」
良 く な か っ た。
「まぁそうカリカリするなリヴァイ」
続いて「いいじゃないかナマエ可愛いから」と聞こえた気もするが気のせいだ。エルヴィンはそんな事言わない。
「うわぁ…こりゃしばらくはリヴァイ大変だね」
「うるせぇクソメガネ、ちょっと楽しそうな面しやがって」
一体何がしてぇんだクソガキ…その真っ黒な腹ん中を暴くのが楽しみだ。俺はエルヴィンほど手緩くねぇからな。