パパと兵長とわたし
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その日、そいつは突然現れた。
「パパ!」
団長室にエルヴィンと二人。声と同時に勢いよく開け放たれた扉の方へ視線を向けると、ガキが一匹立っていた。
年齢はエレン達新兵と同じくらいか。髪は金色、瞳はブルーのスラリとした(だが俺より小さいぞ)ガキだ。
ただひとつ気になるのは兵服のエンブレムとして馬があしらわれている事だ。
いやいや、気になる点をもうひとつ追加。こいつは「パパ」とか言ったな。もちろん(いや多分)俺の方はガキなんざつくってねぇ。
「………」
ゆっくりとエルヴィンを見やれば、ナマエを見つめながら険しい顔で頭上に「?」を浮かべている。時折「!」と浮かんではやっぱり「?」に訂正されている。心当たりあんのかオイ。
「わたし、ナマエ・スミス!初めましてパパ」
少女は眼をキラキラさせ嬉しそうにエルヴィンに近付く。新手のスパイとかじゃねぇだろうな。警戒心を強める。
「…ようこそナマエ。私はエルヴィン・スミスだ」
エルヴィンが腰を屈めナマエに手を差し出すと、ナマエはその手を強く引きエルヴィンの首に腕を回した。そして「会いたかった」と笑って頬にキスをした。
なんだこの図は。
「だがナマエ、私は生憎君を知らない。説明してもらえると嬉しいな」
「やだパパ、そんな寂しい事」
「やだじゃねぇクソガキ。エルヴィンから離れろ」
「………」
あれ、なんだ。俺は憎まれ口を叩いた筈だ。なのになぜこのクソガキは頬を赤らめて俺を見る。
「パパ、こちらの方は?」
「ん?兵士長のリヴァイだ」
「可愛い!パパわたしコレ欲しい!」
え。
なんだこいつ、今なんて言った?
こらクソガキ、俺を指差して甘ったるい顔で見るのはやめろ。エルヴィンに至っては「リヴァイは物ではないし何より君にはまだ早い」とか真顔で言ってやがる。そーじゃねぇだろクズ共が。
「エルヴィン、なんだこいつ。本当に娘なのか」
「私が知りたいところなんだが…」
「ナイル団長が、わたしはエルヴィンパパの子だって教えてくれたの!」
「理解に苦しむな」
そう言いながらも、エルヴィンはナマエの髪を弄りながらにこにことその話を聞いている。
「取り合えずエルヴィン、こいつは話がまとまるまで俺が引き受けよう」
エルヴィンの邪魔になる事態を避け、俺はナマエの腕を掴み退室しようとする。
「ありがとうリヴァイ。だが手を出してもらっては困るよ、まだその子はお客様だ」
「安心しろ、俺にはそんな趣味はない」
俺はまだ警戒を解いちゃいない。ナマエは「行ってきますパパ」とエルヴィンに笑った。
廊下に出て、俺は凄みを利かせてナマエを見た。一体どういうつもりだこのクソガキ。
「あの、わたし逃げないから、手を…」
少し強く掴み過ぎたか。と手を離すと、ナマエは俺の指に自分の指を絡めた。
「何やってんだオイ、俺の手が汚れるじゃねぇか」
「どうせ繋ぐならこうしましょう」
「却下だ、離せ」
「いいじゃないですかちょっとくらい。えへへ」
削がれてぇのかこいつは。頭ん中脳ミソじゃなくクソでも詰まってんじゃねぇのか。
「え、何してるのリヴァイ」
エルヴィンに書類でも届けに来たのだろうハンジに見つかってしまった。
おいおいこれ以上の面倒事は勘弁してくれ。
「そんなとこでイチャイチャしてないで私の部屋においで」
「なんでだよクソメガネ」
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結局ナマエが「なんだか面白そうなので行きます!」と答えたせいでハンジの研究室に連れ込まれた。面白いのはテメェの頭だろーが。ほら見ろ、モブリットなんか下衆でも見るように俺を見てやがる。
「えぇぇぇ!ナマエってばエルヴィンの娘さんなの!?なんだてっきりリヴァイの彼女かと思ったのになぁ、廊下で指絡め合ってるんだもん!」
「ハンジ、全てが誤解だ」
うわぁモブリットの眼がやべぇ。
「パパわたしの事知らないって。もぉ絶対情熱的な一夜だった筈なのに」
「バカの申し子かてめぇは」
「隠し子かも!男側はわかんないもんねぇ」
「やめろハンジ。ガキの妄想に付き合う必要はねぇ」
…そう言えば地下牢のエレンはどうしてるだろうか、そろそろ見に行かねぇと。
「ハンジ、ちょっとこいつを見ててくれ。俺はエレンの様子を見てくる」
「兵長が行くならわたしも行く!」
「お前には関係ない」
ぶーっと頬を膨らませてナマエは俺を睨んだ。
こいつはおそらく、エレンの事を探りに来たスパイに間違いないようだ。