long/温かな光
□3-8
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こんな日に限って空が澄んでいるものだから、わたしは余計にあの日を後悔してしまう。
反省を次に活かす事も出来なくなった今、後悔なんて何の役にもたたないのだけれど。
訓練場の奥にあるこの場所はわたしのとっておきの場所だった。
少し小高い丘になっていて、短い草が生えていて、風がよくあたる。なにより空が大きく見渡せる。
「ここにいたのか、ナマエ」
リヴァイが不意に現れて、ビクリと体が跳ねた。
わたしが怪我をしてから、リヴァイは一度もわたしを叱らなかった。もしかして回復するのを待って叱られるかな、なんて思っていたのだが、生憎そんな様子は窺えない。
「何をしてた」
「空を見てたの」
「………」
「急に見たくなって。だけど見なきゃ良かったな」
「………」
「太陽なんて嫌い。空なんて嫌い」
言葉が終わるのを待たず、リヴァイに後ろから抱き締められた。
「風邪を引く」
「そうだね…戻らなきゃ」
「よいしょ」と松葉杖を拾い、歩き出す。
歩く…?
そうだ…わたしは歩いていない。歩けない。
今この瞬間も、これからも。物理的にも。そうでなくとも。
歩くどころか、
「跳べない」
「ナマエ?」
「…あ、ううん。なんでもない、ごめんなさい」
その小さな呟きは、どうやら笑顔と笑い声ではかき消す事が出来なかったらしい。
「無理するな」
リヴァイはそう言った。
「無理なんてしてないよ。まぁ確かに…この先どうしたらいいか不安だけど」
「兵士になる前のように仕事をこなせ。そういう結論に至ったはずだ」
「…そう、なんだけど」
エルヴィン団長にそう命じられ、わたしは以前のようにハンジの手伝いをする事になった。
のだが、実はこのまま退団してしまおうかと考えていた。
確かに以前のような職務なら勤まるのかもしれない。だけどわたしは、一度兵士になってしまったのだ。このまま使えない兵士がここにいるのは虚しすぎる。他の兵士達にも合わせる顔がない。
「無理言って兵士にしてもらって、兵長様直々に叩き込んでもらったはずなのに、一瞬でまた役立たずなんて、笑っちゃうね」
「役立たずなんかじゃねぇと何度言ったらわかる」
「そうだね…本当に、わたしって面倒な女で…」
はぁ、とため息をついて、リヴァイは頭を掻いた。
「もうやめろナマエ。自分で自分を責めてどうする」
「だってみんな優しくて、誰も責めてくれないじゃない」
みんな「生きていて良かった」とか「よく頑張った」とか曖昧な事しか言ってくれなかった。せめて思い切り罵られでもしたら、自分を守って楽になれたのに。
「おまえは責められるような事はしていない。お前の活躍が無ければ、今生きてる奴の誰かが死んでたかもしれないんだ」
「確率とか可能性とか、そんなぼんやりした事…」
「だったらおまえに確実な未来をくれてやる」
「確実なものなんて」
「俺と結婚しろ、ナマエ」
まばたきを忘れてしまったわたしの瞳が大きく揺れている。
「これは命令だ」
頬と耳を赤く染めた愛しい人の言葉に、嫌いになりかけたこの場所が、また、好きになる…。