long/温かな光
□3-4
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廊下を歩いていると、本や書類を抱えて走るリヴァイが女性兵士とぶつかった瞬間を目撃した。
慌てて駆け寄ろうとするが、
「すみません兵長、大丈夫ですか!?」
「俺の方こそ、すまない」
二人で散らばった書類を拾う様が、なんだか絵になっていて立ちすくんでしまった。恋愛小説なんかでよくある出会いのパターンだ。
「もし良ければ、半分お持ちします」
「悪いな。頼む」
「はい」
そう言えば、こんなリヴァイをわたしはあまり見た事がない。
リヴァイが他の兵士と協力する姿、リヴァイが上司として部下に頼み事をする姿、リヴァイが、女性と話す姿……
なんだろう。変な気持ち。
「ナマエ」
「エルヴィン団長!」
呼ばれた声に振り向けば、久し振りに会う団長がこれまた沢山の書類を抱えて立っていた。
「久し振りだね、ナマエ」
「はい団長。あ、半分お持ちします」
さっきの女性と同じ事を言ってるなと思いつつ、優しい笑顔の団長から書類を半分受け取った。
「訓練の方は、なかなか順調らしいね」
「はい。だけどリヴァイったらわたしが失敗するたびに助けようとするんですよ」
「ははは、リヴァイらしいな」
「団長、お忙しいんでしょ?体に気を付けて下さいね」
「ああ、ものすごく忙しいんだ。これからまた予定が入ってね」
団長は「ナマエとお茶をする予定なんだ」と笑った。
やっぱり団長は温かい人だ、と頬が緩む。
団長室に入ると、そこに見知らぬ兵士がいた。
「カイだ。彼はナマエが今までやってくれていたような仕事をしているよ」
「カイ・ハイゼンベルクです」
と、彼は敬礼をした。
「あ、えっと…ナマエ・ミョウジです」
とわたしも敬礼を返すと「ナマエさんまで敬礼せずとも!」とカイは焦った様子を見せた。団長も笑っている。
「カイ、しばらく席を外してもらってもいいかな」
「はっ」
とカイは再び敬礼をして部屋を出ていく。
もしかしてわたしは今まで、団長や周りの人達にとても失礼な態度だったのではないかと、彼を見て反省した。
「ナマエ、君の淹れたコーヒーが飲みたいな」
「あ、はいっ!」
と、つい敬礼をしてしまう。
「ぷっ」と団長が笑い出して、わたしも笑った。
「ナマエが敬礼だなんて、なんだか不思議だな」
「今までわたし、すごく団長に甘えてたんですね…」
「それがナマエのいいところだよ。むしろ、私のせいだ。私がそんな風に君を育ててしまったからね」
そっか。一線を越えてしまったから…
団長はソファーに座り、ふぅ、と息を吐いた。
「ナマエ、君はエレンをどう思う?…友人なんだろう」
「…団長には感謝してます。彼を生かす道を見つけてくれて。エレンは強い人です。わたしは彼を信じてます」
「そうか…ナマエがそう言うなら、私もエレンを信じよう。今まで以上にね」
やっぱり団長は素敵な人だ。
わたしが淹れたコーヒーを机に置くと、団長がソファーの隣をぽんぽんと叩く。
「し、失礼します」
隣に座ると、団長の匂いがした。ほのかに香る香水の香り。
団長は大人だなぁと思う。リヴァイだってもちろん大人なのだけど、うーん、団長はやっぱり違うのだ。どちらが良くてどちらが悪いとか、そういう事ではなく。
コーヒーを一口飲んで、団長はわたしを見た。
「君の存在は、私にとって大きな弊害だな」
「え?」
「ナマエが兵士だなんて、今でも考えたくないんだ。もしナマエが――」
「おい」
荒々しい音と共に扉が開き、不機嫌そうなリヴァイが立っていた。
「あ」
あの女性兵士と共に。
「エルヴィン、てめぇナマエに不吉な事言うんじゃねぇ」
「おや、聞いていたのかリヴァイ」
リヴァイと女性兵士は団長の机に書類を置いた。女性兵士は敬礼をして部屋から出ていく。
「大体、仕事がクソ程残ってんのにいいご身分だな。ほらコレ、ハンジの分もだ。ったくナマエもナマエだ。エルヴィンが忙しい事くらいわかってんだろ」
「ご、ごめんなさいっ」
「いいんだナマエ。座っててくれ」
慌てて立ち上がったわたしを、団長が座るように促した。
「しばらく休憩もとっていないからね。久し振りにナマエのコーヒーが飲みたかったんだよ。これくらいのご褒美なら、許されるだろう?」
「…チッ」
「私はリヴァイのように誰かに仕事を押し付けてナマエを愛する時間を作るなんて、出来ないからね」
と団長はニヤリと笑う。真っ赤になったリヴァイが「クソメガネの野郎」と歯軋りしながら部屋を出ていく。相変わらず荒々しい扉の扱いだ。
「ね、ナマエ」
と笑う団長の顔を、リヴァイと同じく真っ赤になったわたしは見上げる事が出来なかった。