long/温かな光
□3-4
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*お話がちょっと前後してます。すでに訓練兵は兵団配属済み。
あくびをしながら食堂に入る。ふわりと漂う香りに、そういえば昨日も研究に没頭しすぎて夕食を逃したんだったと思い出した。これから今日中に報告書やら企画書やらを提出しなくてはならない。忙しい。
「ん?」
なんだか食堂の雰囲気が違う。賑やかだ。あぁそうか、新兵が入団したんだ。確か今期の調査兵団への入団は21人だとエルヴィンに聞いたっけ。
その中で、新兵と仲良く食事しているナマエを見つけ顔が綻んだ。うん。いい傾向だ。
最近のナマエがリヴァイに構ってもらえなくてしょげてるのを私は見逃していない。研究者だからね。だけどその穴を埋める時間は私にもなくて、だからこうして新兵くん達がナマエに笑顔を取り戻させてくれているのが、実に喜ばしい。
だけど聞こえてくる会話には、ちょっと解せないものもいくつか。
「俺が壁外調査から帰ってきたら、ちゃんと出迎えてくれよ」
「あ、お前どさくさに紛れてずりぃぞ!ナマエ、俺もちゃんと出迎えてくれよな」
「みんなちゃんと出迎えるから、ケガしないで帰ってきてね」
ナマエが人気者になっている。いや、ヒロインになっている。
ナマエが年齢も近い新兵くん達から懐かれやすい事は容易に想像できたけど、ナマエはずっとずっと先輩なんだからな。私より長く調査兵団でエルヴィンの傍にいた大先輩だ。そして今は調査兵団兵士長の恋人だ。
そのナマエが、
「俺、ナマエに会えて良かった」
新兵くんの恋愛対象になるなんて、100年早いんだぞ。ナマエもナマエだ。「わたしもだよー」なんてお気楽な返事をしてる。
「ご馳走さまでした。あ、ハンジ!」
ナマエは私を見付けると、周りの新兵に「ありがと」と礼を言って席を立ち、私の隣に座った。
「ナマエ。周りの視線に気付いてる?」
「ん?」
全然気付いてない。これだからリヴァイに訓練兵だったあの子達と会うのを禁止されたりしてたんじゃないか。
「ナマエは、リヴァイの恋人、でしょ」
「…な、なにハンジ。改めて言われたら、恥ずかしいんだから」
「あんまり新兵くん達とじゃれあってたら、リヴァイが妬いちゃうよ」
「だって楽しいんだもん」
「歳も近いし」とナマエは続けた。リヴァイがあんなに不安がっていた理由が今なら私にもよくわかる。
「じゃあさ、ナマエ。歳の離れた恋人は、楽しくないわけ?」
「え?リヴァイの事?ううん、楽しいよ」
「あのねぇ…」
仕事は出来る筈のナマエなのに、どうにもこういう事には無頓着だ。
「私がナマエの恋人だったら、歳が近い異性と楽しそうに話す姿を見るのは、あまり気分がいいものじゃないよ」
「…ジャン達と、仲良くしない方がいいって事?」
「限度があるでしょ、って事」
ふむふむ、あのやけに親しげな子はジャンて言うのか。
「よくわかんない」
「心配なんだよ。ナマエが」
そう。色んな意味で。
「リヴァイがさっきの光景を見てたら、きっと怒ると思うなぁ」
「どして?」
「もう、なんでナマエはわからないのさ!あ、じゃあさ、」
「うん」
「リヴァイが同級生の女性と、すうぅっっっごく親しげにして『歳が近いと楽しいな』って笑ってたら、ナマエはどう?」
まぁリヴァイが笑うなんてあり得ないんだけど。
だけどこの言葉は的確にナマエの心を貫けたようで。
「…ハンジの言いたい事、わかった」
「ふぅ、良かった」
「これからは歳の離れた人達とも、もっと仲良くする!」
全然貫けてなかった…どーしてこの子はわかってくれないんだろう。
やれやれと首を振る私を見て、ナマエは「ん?」と微笑んでいる。