long/温かな光
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リヴァイ達の壁外調査が5日後に迫っていた。「しばらくわたしの訓練はいいから」とただでさえ忙しい彼を解放しようとするが、リヴァイは「お前一人の訓練は危険だ」と言い取り合ってくれなかった。
団長に相談すると、「リヴァイの好きなようにやらせておけばいい」と笑った。
「リヴァイ、わたししばらく訓練を休むから」
「そんな事言って俺の目を盗んで訓練するんだろ」
「う…」
「お前は何も気にするな。巨人なんかに喰わせてたまるか」
リヴァイの気持ちはとても嬉しい。厳しい訓練は全て愛情の裏返しだ。
だけどリヴァイにはリヴァイの仕事がある。それを邪魔してるんじゃないかと思うと胸が痛かった。
「ねぇリヴァイ」
「なんだ」
「わたしの訓練にかまけて、もし、リヴァイに無理がかかってて、その…」
――もし、何かあったら…
そう言いたくて、だけど怖くて、わたしはグッと言葉を飲み込んでしまった。
「ナマエ」
「え?………ん、っ」
不意に口付けられて、一気に全身が熱くなった。頬に添えられた手が優しい。
「俺がそんな簡単に死ぬ男だと思うか。お前を置いて」
「………」
「心配するな。今は自分の事だけ考えろ」
そんな事言われても。
そう思いながら、わたしは彼を安心させたくて大きく頷いた。
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そしてリヴァイ達が壁外調査に行く日を迎えた。
いつだって願う事は同じ。
(どうか、みんなが無事に帰ってきますように)
「ナマエ、俺がいないからって無理するんじゃねぇぞ」
「わたしよりリヴァイだよ。気を付けてね」
リヴァイはふいっとそっぽを向いて、わたしの頭をくしゃりと撫でた。そっぽを向くのは、周囲の目を気にする彼の照れ隠しだ。
「行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
そこへ馬に乗ったハンジがやって来る。今回の調査にはハンジも参加するのだ。
「ナマエ、後は任せたよ」
「うん、大丈夫。ハンジも気を付けてね」
「ありがとうナマエ」
壁外調査に向かう時のハンジはとても穏やかな表情をする。それが周囲を心配させない為だと知ってるわたしは、ハンジみたいな兵士になりたいと考えるのだった。
次第に遠くなるみんなを見送りながら、わたしは何度も、手を組み祈るのだった。
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そしてそれは、リヴァイ達が壁外に向かってしばらく経ったある日の事だった。
研究室で、ハンジから頼まれていた書類を作成していた時の事。
ものすごい閃光と爆音に、窓ガラスがガタガタと震えた。一部のガラスは割れてしまった。
「何っ!?」
わたしは慌てて馬に乗り、騒ぎのある方へ向かった。わたしはそこに広がる光景に唖然とする。
岩があちこちに落ち下敷きになっている人もいる。町中に悲鳴が飛び交い、人々は逃げ回っている。
そしてなにより、
「…巨人!」
壁から顔を覗かせるそれは、とてつもなく大型の巨人だった。
「まさか…」
人々が逃げ惑う理由はすぐにわかった。巨人により、壁に穴を開けられたのだろう。
「なんで、どういう事?何が起きたの?」
しかもどうして、調査兵団の主力部隊のいないこんな時に。
「ミョウジ!」
名前を呼ばれて振り向けば、駐屯兵のイアンがいた。
「お前は早く戻れ!ここは俺たちが何とかする!」
「イアン!」
彼はそう言って走っていってしまった。
何とかするって、どうやって。
次々と巨人が町に入り込んでくる様子に、わたしはまばたきも忘れて見入っていた。
(こんな悲劇が、5年前にも、シガンシナで…?)
恐怖に足が震えていた。
そして、幼くしてこの悲劇を目の当たりにしたエレンやミカサ、アルミンの強さに、わたしはただただ感服したのだった。