long/温かな光
□2-11
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ナマエと俺が同じ時間にベッドに入る事がなくなった。
ナマエが仕事に向かう時間は俺より早い。「行ってくるね」とキスを交わして笑顔で出て行く。「ただいま」と帰る時間は、俺とあまり変わらない。むしろ俺より少し遅いくらいだ。
ナマエはサッとシャワーを浴びて、それから持ち帰った書類に目を通し始める。俺はベッドに入る。
夜中、ナマエがそっとベッドに入ってくる気配を感じ、ふと目を覚ます。ヒナの体温が伝わってくる。そしてそのまま朝を迎える。
時折、ナマエがベッドに入ってきた時に体に触れようとするも、「明日も忙しいんだから、兵長サマは寝なくちゃダメだよ」と笑顔で制されてしまう。
もしかしたらこんな付き合い方の方がお互いの為になるんだろうか…
そう考えながら何も出来ずに時間ばかりが過ぎていく。情けない事に、俺はナマエに拒絶されるのが怖いんだろう。
その日も、仕事に向かうナマエをベッドから見送る。
「リヴァイは寝てていいのに」
「いや、目が覚めた」
「起こしちゃった?ごめんなさい」
「いや」
「行ってくるね」
と、ナマエは笑顔でキスをする。
唯一、この唇が触れ合う瞬間だけが、心が満ちる時間になった。
「今日も遅いのか」
「うん、多分」
「そうか」
ナマエの髪をさらりとすくう。ナマエがすっと離れ、名残惜しそうな自分の指だけがそこに残った。
少しでも傍にいられるならそれでいい。頭の中でそう考えながら、だがナマエが壁外に向かう事だけは避けたくて、それを阻止する為ならエルヴィンにナマエを返しても構わないと思考を巡らす。どうしたものかと…また今日もこんな想いで1日を過ごすのかと考えると、自分が嫌になる。
パタンと静かに閉じられる扉。
ナマエの残り香。
「…くそ」
どうしようもない気持ちに蝕まれる。
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いつもより少し早く目が覚め、自室と繋がった団長室の机に向かい、その背になったカーテンを少しだけ開ける。
今日もナマエが立体起動の訓練をしている。
ナマエが壁の外に出たい気持ちを押さえられるなら、私だって手を打とう。だがナマエはきっとそれを許さない。むしろ彼女の事だ、止めれば止める程、飛び立とうと足掻くに違いない。
ナマエの考えを本人に問うより、リヴァイの様子を見ていた方がそれは明らかだ。
最近のリヴァイは、以前にも増して無口で無愛想だ。
「リヴァイ、次回の壁外調査についての書類だ。目を通してみてくれ」
書類を手渡し「空白の欄に、兵士を班編成し名前を記入してくれ」と続ければ、リヴァイは「わかった」と小さく言った。
「それから」
「なんだ」
「ナマエの事で話がある。後でいいんだが―」
「今聞こう。なんだ」
ナマエの事になると、彼はおそらく自分でも気付いていないのだろうが表情が緩み、焦る。
リヴァイがナマエをどれだけ想っているか、思い知らされる瞬間だ。
「…毎朝訓練をしているようだが、体調に変わりはないか」
「その事なら大丈夫だろう。訓練の方法はわかってるだろうし、俺がとやかく言える事は何もない」
「ナマエと話はしてるのか」
「俺はあいつを壁外に連れてくつもりはない。だから話をしても無駄だ」
きちんと話をしていないのは、やはりナマエを失う事が怖いのだろう。
「だがこのままだと、ハンジが自分の班にナマエを入れる可能性も有り得る」
「そんな権利をクソメガネにやった覚えはねぇ」
「リヴァイ、もう王都での事件は君も知っていると…ナマエに打ち明けよう」
「……なぜそうなる」
「ナマエには君が必要だ」
「その役目なら俺じゃなくお前が適任だと思うがな」
「リヴァイ」
「俺じゃダメだ」
「ではナマエを返してもらおう。そして私は地下牢に閉じ込めてでも彼女を巨人の驚異から守ろう」
「……何を言ってる」
「少なくとも私にはそういうやり方しか思い浮かばない。違うのなら、やはりそれはリヴァイにしか出来ない」
「いちいち回りくどい男だ」
「誉めても何も出ないぞ」
「誉めてねぇ」
リヴァイは私から視線を外し、再び私を見て、
「ナマエに、話してみよう」
と小さく言い、部屋を後にする。
その背中が少し震えているような気もしたが、私は気付かないふりをした。