long/温かな光

□2-9
2ページ/3ページ

部屋を飛び出したわたしが向かう所はひとつだった。
だけどその部屋をノックしても返事はない。
お願い、早く開けて。

だけど一向に返事はない。
これからどうしたらいいか頭の中は真っ白だ。


「ナマエ?」


部屋の中からではなく隣から聞こえた声に、一瞬ビクッとしてしまった。


「とにかく、入りなさい」


温かな団長の声だった。優しい瞳。
わたしがワンピースの寝間着だった為か、目を真っ赤に張らしていた為か。
団長はすぐに部屋に入れてくれた。


「少し会議があったんだ。ほら、飲みなさい」


団長は甘いココアを入れてくれた。


「そんな格好で、風邪を引くぞ。…髪もくしゃくしゃだ」


優しく頭を撫でてくれる。


「…どうした?」

「………」

「まぁそんな格好でここに来たのを見れば、なんとなく察しはつくが」


王都での出来事を知っている団長にしか、この甘えは許されない。


「わたし…もう、退団します」


自分でも驚いた。
今の今まで思ってもなかった言葉。


「なんにも出来ないんです。誰の為にも、なにも出来ない…こんなわたしが、心臓を捧げる先なんて」

「ナマエ、」

「逃げ出したい」


そう言って泣きながら上げた視線の先の団長は、優しくわたしの涙を拭ってくれた。


「ナマエ、君はしばらく休むべきだ。あの王都での事件の後も、何事もないように頑張ってくれていたが…見ている私がつらいほどだ」

「…団長、それは」

「なんとかなる。なにもかも。とにかく休みなさい」

「だ、けど」


その時、ノックの音も無く扉が開いて、振り向けばリヴァイが険しい表情で立っていた。
体が冷たくなった。リヴァイが怖かった。


「ナマエ…そんな格好でこんなとこで、なにやってんだ」


リヴァイがつかつかと歩み寄って来るのを見て、わたしは咄嗟に団長の後ろに隠れてしまった。


「帰るぞ、ナマエ」

「嫌だ」

「ナマエ」

「もう放っておいて」


きっとリヴァイはわたしが従わない事と、エルヴィン団長を盾にしている事が酷く気に食わないに違いない。
そうわかってはいるけれど、わたしは彼の元へ行く気にはなれなかった。


「リヴァイ、そんなにすごんだらナマエだって怖がるさ。ナマエも、冷静になってリヴァイと話し合ってみたらどうだ」

「エルヴィン、さっさとナマエをよこせ」

「リヴァイ、君と言う奴は…ナマエは物ではないし、意思があるんだよ」

「ナマエ、早く帰るぞ」


グッと腕を掴まれて引き寄せられる。だけどわたしはその手を振りほどいて、団長の腕にしがみついた。


「来ないでリヴァイ…!わたし、今日は帰らないから!」

「てめ…」

「やめなさい二人とも!リヴァイ、ナマエは今夜、ペトラに任せよう」

「嫌だ団長、見放さないで」

「ナマエ、落ち着きなさい」


わたしは混乱していたのだと思う。
怖かった。王都での事が他の人にバレるのも、団長に見放されてしまうのも、リヴァイに、全てを知られて幻滅されてしまう事も。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ