long/温かな光
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部屋を飛び出したわたしが向かう所はひとつだった。
だけどその部屋をノックしても返事はない。
お願い、早く開けて。
だけど一向に返事はない。
これからどうしたらいいか頭の中は真っ白だ。
「ナマエ?」
部屋の中からではなく隣から聞こえた声に、一瞬ビクッとしてしまった。
「とにかく、入りなさい」
温かな団長の声だった。優しい瞳。
わたしがワンピースの寝間着だった為か、目を真っ赤に張らしていた為か。
団長はすぐに部屋に入れてくれた。
「少し会議があったんだ。ほら、飲みなさい」
団長は甘いココアを入れてくれた。
「そんな格好で、風邪を引くぞ。…髪もくしゃくしゃだ」
優しく頭を撫でてくれる。
「…どうした?」
「………」
「まぁそんな格好でここに来たのを見れば、なんとなく察しはつくが」
王都での出来事を知っている団長にしか、この甘えは許されない。
「わたし…もう、退団します」
自分でも驚いた。
今の今まで思ってもなかった言葉。
「なんにも出来ないんです。誰の為にも、なにも出来ない…こんなわたしが、心臓を捧げる先なんて」
「ナマエ、」
「逃げ出したい」
そう言って泣きながら上げた視線の先の団長は、優しくわたしの涙を拭ってくれた。
「ナマエ、君はしばらく休むべきだ。あの王都での事件の後も、何事もないように頑張ってくれていたが…見ている私がつらいほどだ」
「…団長、それは」
「なんとかなる。なにもかも。とにかく休みなさい」
「だ、けど」
その時、ノックの音も無く扉が開いて、振り向けばリヴァイが険しい表情で立っていた。
体が冷たくなった。リヴァイが怖かった。
「ナマエ…そんな格好でこんなとこで、なにやってんだ」
リヴァイがつかつかと歩み寄って来るのを見て、わたしは咄嗟に団長の後ろに隠れてしまった。
「帰るぞ、ナマエ」
「嫌だ」
「ナマエ」
「もう放っておいて」
きっとリヴァイはわたしが従わない事と、エルヴィン団長を盾にしている事が酷く気に食わないに違いない。
そうわかってはいるけれど、わたしは彼の元へ行く気にはなれなかった。
「リヴァイ、そんなにすごんだらナマエだって怖がるさ。ナマエも、冷静になってリヴァイと話し合ってみたらどうだ」
「エルヴィン、さっさとナマエをよこせ」
「リヴァイ、君と言う奴は…ナマエは物ではないし、意思があるんだよ」
「ナマエ、早く帰るぞ」
グッと腕を掴まれて引き寄せられる。だけどわたしはその手を振りほどいて、団長の腕にしがみついた。
「来ないでリヴァイ…!わたし、今日は帰らないから!」
「てめ…」
「やめなさい二人とも!リヴァイ、ナマエは今夜、ペトラに任せよう」
「嫌だ団長、見放さないで」
「ナマエ、落ち着きなさい」
わたしは混乱していたのだと思う。
怖かった。王都での事が他の人にバレるのも、団長に見放されてしまうのも、リヴァイに、全てを知られて幻滅されてしまう事も。