long/温かな光
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だが、あの日以来、夜のナマエは次第に俺を避ける様子を見せ始めた。
一緒に眠ったって、抱く事は許されない。それは言葉ではなく、雰囲気が物語っているのだ。
「ナマエ、どこへ行く」
「今日は早めに夕食をとって、休むね」
ナマエはそう言って部屋を出て行く。
二人で会話をする時のナマエは笑顔だ。髪を撫でれば喜ぶ。巨人の話をしてやれば興味を示す。一緒に眠れば抱き合う。
だが、体を重ねる事だけはないのだ。
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廊下でハンジに呼び止められた俺は、奴に促され研究室へ入る。
「どうした、俺は忙しいんだが」
「いや、ナマエの事でさ」
ナマエの事でと言われると、つい黙って話を聞く気になってしまう。
「ナマエの様子が最近おかしいんだよ。まぁ仕事をする分には全く差し支えないんだけどさ、つまり逆に集中しすぎていて、なんていうか…なにか無理をしてるんじゃないかなぁ、って」
「てめぇがこきつかい過ぎてんじゃねぇのか」
「リヴァイったら酷いなぁ〜だけど思い当たる節があるなら、ちょっと要注意かもしれないよ?」
「あぁ?」
「時々、怖い顔をしてるんだよねー…それが私の思い違いであったらいいんだけど」
つまりは、ナマエはストレスを溜めてるんじゃないかと、そういう話だった。
だったら俺には何ができるんだ。
「…思い当たる節はある。だが、俺はどうしていいかわからねぇ」
「そうかい、いやぁ良かった!君がちゃんと気付いてるなら、大丈夫だね!」
「そう、うまくいきゃいいがな…」
「…王都で、何かあったんだろう?多分私の憶測は、内容も当たっていると思うけど」
「だったら話が早ぇ。俺はどうしたらいい」
勘のいいハンジなら恐らく全てを見通してるだろう。
ハンジはしばらく考えて、
「少し、離れてみたら?」
と言った。
「俺が離れてどーするんだ。誰がナマエを守るんだ」
「君が一緒だから、きっと強張ってしまうんだよ」
「なんだと」
こっちだって守りたくて色々悩みながら過ごしてんだ。
今ナマエを一人にしたら、あいつはきっと後ろ向きな事ばかり考えてしまうんじゃないだろうか。
「リヴァイが想ってるようにナマエも君を想ってるから、だからお互いに疲れてしまうんじゃないかな」
「俺は疲れてねぇ」
これ以上こいつと話してても無駄だと、俺は研究室を出た。
確かにナマエは俺に事実を隠している事を重たく感じているだろう。
だからと言って今更全てを知っているのだとナマエが知ったら、ナマエは自分を責めたりしないだろうか。
「くそ…」
無力な自分に嫌気がさす。
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夕食を済ませて部屋に戻れば、ナマエはもうベッドに入っていた。
こちらに背を向けて、まるで、俺を拒絶するように。
「ナマエ」
と小さく声をかけてみるが、返事はない。
それがなんだか腹立たしくて、俺はベッドに近付いた。
「ナマエ、寝てんのか」
返事はないが、寝息も聞こえない。
寝たふりをしてやがる。
俺はナマエの肩を掴んで、無理矢理こちらを向かせた。
ナマエの目が驚きで開かれる。
「ナマエ、いい加減にしろ」
「な、に…」
「俺を避けてるだろ」
「避けてなんかないよ」
俺はナマエに跨がり、両手首を押さえてキスをした。
やはりナマエは素直にそれを受け入れず、固く目をつむり途中で顔を背けた。
「リヴァイ、わたし…疲れてて」
「じゃあこっちも言わせてもらうが、毎日一緒に寝ながら抱かせないのはどういうつもりだ」
「別に、そんな、つもりじゃ…」
ナマエの目が怯えている。
俺を見て怯えている。
そのまま首筋に唇を這わせば、ナマエは声を震わせて、
「リ、ヴァイ…やめて…」
と、やはり俺を拒んだ。
「どうして拒む」
「拒んでなんか…」
どうして俺は、ナマエをわかってやれないのだろう。
「だったら抱かせろ」
「む、無理なの…」
きっと自分が汚れていると思っているのだろう。だから俺にそんな自分を見せられないのだろう。
純粋なナマエの事だ。理解しているつもりだった。
それなのに、
「無理なのは俺の方だ」
「お願い…ごめんなさい、お願い。お願いだから…」
ナマエの目尻から涙が零れて、俺はもう、どうしていいかわかなかった。
ただ悲しくて、虚しくて…寂しかった。
「悪かった」
そう呟いてナマエから退けば、ナマエは泣きながら部屋を飛び出して行った。
ナマエは薄いワンピースの寝間着のままだったが、俺はしばらく、追う気になれなかった。