long/温かな光

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ようやくナマエを見つけた時、彼女は商人の息子のベッドの上で、シーツに裸を隠し放心状態だった。
そして顔には、無数の皮下出血が見受けられた。唇には血が滲んでいる。
そして男の精の、独特の臭い。

…見るに耐えなかった。


「ナマエ…」

「…来ないで下さい」


ナマエはか細い声でそう言った。
数時間前まで王都の見学を楽しみに満面の笑顔を浮かべていたナマエに、一体何があったと言うのか…
いや。推察するまでもない。
私の心は、ナマエの姿を目の当たりにして、ただただ憎悪の念が膨れる一方だった。


「すまないエルヴィン、うちの息子はとんだ放蕩息子でねぇ」


そう言う商人の表情に、謝罪の色はひとつも浮かんではいなかった。


「まぁ一人の女兵士のおかげで無事に資金提供が受けられたと考えれば、安いものだろう、エルヴィン」

「すまないが、ナマエと二人にしていただきたい…」

「ん、あぁ、わかったとも」


商人は重い扉を執事に開けさせ、笑みを絶やさぬまま退室した。


「ナマエ……」

「…だん、ちょ」

「すまない、私が君を一人にしたばっかりに」


ナマエを抱き締めて安心させてやりたい。
しかしそれは、叶わなかった。


「来ないで下さい。わたしに触らないで」


乾いた瞳と唇から、ナマエのものとは思えぬ厳しい言葉が発せられた。


「ナマエ…」

「………」

「ナマエ、帰ろう。リヴァイのところに」

「!」


ナマエの顔色が変わった。みるみる顔色が青ざめていく。


「…こんな状態で、帰れない」


そして瞳から、大粒の涙がボロボロと零れ落ちた。
嗚咽混じりに、その涙は止まらない。
その体を抱き締めたかった。大丈夫だからと、伝えてやりたかった。


「ナマエ」

「わたし、無理です…帰れない」

「大丈夫だナマエ、帰ろう」

「なにも大丈夫なんかじゃない…わたし…」


どうしたらこの子を救ってやる事が出来るのだろうか。
数時間前の笑顔が、とても懐かしく感じた。





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エルヴィンとナマエがなかなか王都から帰らず、俺は多少ピリピリしていた。


「リヴァイ、少しは落ち着きなって」

「俺は落ち着いている」


ハンジの言葉を無視して、俺は俺の仕事に取り掛かる。
しかし遅い。遅過ぎる。
何かあったのだろうか。例えば事故とか…などと考えるだけで手が震えた。
もちろんエルヴィンも一緒なのだから、何も心配は要らないと思うが。


「ねぇリヴァイ、やっぱり気にしてるんでしょ」

「うるせぇクソメガネ…大体いつまで俺の部屋にいるつもりだ」

「んー…見張り、的な?」

「あぁ?」

「居ても立ってもいられなくなったリヴァイを止める役目だよ」

「…ったく」


ハンジはにやにやと俺を見て


「もうナマエがいないとダメだね、リヴァイは」


とほざく。
顔が熱くなったのが自分でもわかったから、反論はやめた。…反論する理由もない。


「紅茶淹れてあげようか」

「てめぇの淹れる紅茶は渋すぎて飲めたもんじゃねぇ」

「酷いなぁ。じゃ、頭撫でてあげようか?」

「そりゃ俺の方がナマエにする事……って、てめぇ!」

「あはは、リヴァイは単純だなぁ。一度私の研究対象になってみないかい?ナマエのように精神論を進めるつもりはないのだけど」


そう言えば、ナマエは新兵に興味を持っていた。あれは、精神分析を行いたかったのか。
確かに今期の新兵達には、今までの兵士達にはないものがある。それがなんだと問われれば俺にはうまく答えられないのだが、きっとナマエはそれを知りたかったのだろう。
もしかしたら自分に似てる部分を見つけたのかもしれねぇ。

なんて考えていた俺の耳に、馬車の音が響いた。
慌てて席を立った。
クソメガネが「慌てると転ぶよー」なんてどっかの母ちゃんみてぇな事を言っていた気もする。
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